電車の向こう側。【完結】






その夜。







 未来は帰りの電車に揺られていた。

 ホームの照明が車窓を流れていく。

 人の話し声、アナウンス、金属音。

 そのすべてが、なぜか遠く感じた。







 イヤホンを耳に差し込むと、「月の光と私」が再生された。
 ピアノの音が、静かに車内を包みこむ。





 窓の外を見つめながら、未来は呟いた。





 「ねぇ、聖くん……あなたの音って、どこに行くの?」





 次の駅に着く直前、ふと視界の端に“それ”が映った。



 反対側のホームに、金色の電車が停まっていた。






 ありえない色だった。

 街の灯りを反射して光るのではなく、自ら発光しているような金。
 まるで、現実の隙間に滑り込んだ幻のように。







 「……えっ?」






 未来は思わず立ち上がった。

 周りの乗客は誰も気づいていない。

 その電車は、静かにドアを閉め、音もなく走り去っていった。

 まぶしさの残像だけが、車窓に残る。



 「……何あれ?、私なんか疲れてる…?」



 未来は自分に言い聞かせるように呟いた。

 だが、その夜、眠りにつく直前——
 彼女の脳裏に、あの金色の光が何度も何度も浮かんだ。