電車の向こう側。【完結】

イヤホンを耳に差し込むと、いつものようにピアノの旋律が流れ出す。




 まるで朝の空気と同化するような、静かで澄んだ音。
 それは、結城聖が作曲した「月の光と私」という曲だった。




 それは、未来のお気に入りの曲だ。





 目を閉じると、知らないはずの遠い景色が浮かぶ。
 ガラス越しの光、夜明けの海、指先に触れる冷たい鍵盤。
 ——聴くたびに、なぜか懐かしくなる。








 けれどすぐに、未来は頭を振った。






 「だめだ、また変なこと考えてる。」






 自分の世界は、ここにある。
 平凡で、変化のない日々。
 それこそが、未来が築いてきた“完璧な形”だった。