呪われて謎のスライムしか出せなくなった聖女の進路先

休日、エルーナは自分の部屋で紅茶を飲んでいた。

(この時間が一番好き)

騒がしい足音が近づいて来る。優雅な時間が壊れる予感がした。

「エルーナーー!」

ドアを開け放つエルーナの父とその後ろについてきた母だ。

「どういう事か、説明しろ!」
「何がです?」
「レーノルザンの宰相から手紙が来て、息子とエルーナの婚約に承諾してくれと、どういう事だ!」

宰相という言葉でエルーナは紅茶を吹き出した。令嬢失格だ。高い茶葉がもったいない。

「スチュアート・マリジェッダは同級生よ」
「お友達なの?」
「まぁ、今はね」

母の質問に首を傾げながら答えるエルーナ。

(あの人、宰相の子息なのね)

「貴方、恋愛結婚って事よ」
「いやいや、聖女の頃ならわかるが今のエルーナは、ただのエルーナだぞ?」
「ただのエルーナじゃダメなの?」
「呪いを解く方法を考えてくれるのですって」
「解けるのか、呪い?」
「さぁ? 解けなかったらどうするつもりなのかしらね」

仕事でしか、聖女はこの国から出ることはできない。普通、呪いが解けたら婚約破棄だろうと思うエルーナだが、偽装婚約だから問題ないと考える。

「一応承諾の返事しておくからな。婚約破棄されても文句言えないからな」

父はエルーナを指差しながら言う。

「破棄されたら今度こそ貰い手は無くなるぞ、覚悟しろ」
「わかりました」

父はブツブツ言いながら、母はその後を付いてエルーナの部屋から出ていった。


◇ ◇ ◇

次の日。学園でマリジェッダに話しかける。

「宰相なんて聞いてないけど?」
「ああ、悪い。身分を隠してこの学園に入学しているからな」
「何でここで明かすのよ」
「婚約者になるからだ」

エルーナにはよくわからない。

「聖女を連れて帰るのが目的だと言っただろう」
「でも聖女はこの国を出ることはできないはずよね?」
「一時的だがお前は聖女としての認証は取り消されているからな」
「そうね。どこの教会でも雑用係でさえ採用されなかったわ……」

エルーナはほとんどの神殿と教会の採用試験に落ちている。

「何でレーノルザンには聖女が必要なの? 派遣でも良くない?」
「それはその内にわかる」

どういうわけだろうかエルーナは思考の世界に飛び立とうとする。