呪われて謎のスライムしか出せなくなった聖女の進路先

いつも昼食を食べるベンチでエルーナは放課後、マリジェッダを待っていた。
銀杏の葉を踏む音がする。マリジェッダがやって来た。

「待った?」
「少しね。話って何?」
「それなんだが」
「ちょっと待って」

エルーナは急に恥ずかしくなった。

(この展開って告白じゃない?)

「お前、呪いが酷くなってないか?」
「え? そんなことないけど」
「そうか」

全然告白じゃない、見当違いの予想に恥ずかしくなるエルーナ。
マリジェッダは何か考えている。

「それなら俺の国に来るか?」
「え? 貴方の国?」
「そうだ。隣国のレーノルザンだ」

エルーナはうっすらと頭の片隅にある隣国の印象を思い出す。

「レーノルザンって大国ね。貴方、レーノルザンから留学に来ていたのね」
「そうだけど。来るのか、来ないのかはっきりしろ」
「それってつまり……?」
「ヘッドハンティングだ。聖女として連れて帰る」
「え? 私おおいに呪われていますけど?」

右手を胸に当てるエルーナ。

「呪いを解けば使えるようになる」
「そんなに簡単にいくかしら?」

どんな聖女に頼んでも浄化しきれない呪いを解けるのだろうか。

「どうにかするしかないだろう」

マリジェッダは瓶底眼鏡を外した。ハンカチを出して眼鏡を拭いている。

「ええ? 貴方……」

目付きは悪いがきれいな顔をしている。ひょっとしたらゼストよりも良い男かもしれない。

「どうした?」

エルーナは戸惑いを隠せない。

「私に近づくために、わざと水溜まりで転んだの?」
「それは違う!」

もう瓶底眼鏡をはめていた。

「眼鏡の度が合わないんだ」

だったら眼鏡しなきゃいいのにと思いながらエルーナは首を傾げた。

「それより呪いが解けたら俺の国に来るよな? 鞍替えするなよ」
「呪いが解けたらね」

解けるものなら解いてほしいけど、そう簡単にはいかないのは予想できた。

「約束だからな」
「ええ、約束ね」

少し沈黙が続いたあと、銀杏の木の下のベンチで並んで話の続きをする。

「この国はお前を保護しないんだな」
「手を尽くしたみたいだけど、どうしても呪いが解けなくて」
「どんな事をしたのか聞いてもいいか?」
「まずいろんな聖女のところを回って呪いを解いてもらおうとしたわ」

マリジェッダは頷いている。

「それから魔神の研究している人に呪いの分析をお願いしたり……」

マリジェッダは首を傾げている。

「あとは毎日、女神に祈りを捧げることと、お祓いっていうのもしたわ」

マリジェッダは空を見上げている。