呪われて謎のスライムしか出せなくなった聖女の進路先

学園で会ったとしてもマリジェッダはエルーナから距離を置いているようだった。
あの楽しい日々は戻ってこないと思うと悲しくて虚しい。
学園で見かけると相変わらずマリジェッダは瓶底眼鏡をかけている。

エルーナはまたいつものベンチで昼食を取る。

(これなら最初から楽しいことなんて知らずにいられたらよかったのに)

マリジェッダと出会う前に逆戻りしたらしい。

(でも私、後悔はしていない)

二年生の学年末の舞踏会を思い出す。マリジェッダの微笑んだ顔、高揚する気持ち。

(後悔はしたくないな。だって……)

もう一度話したいと思う。

◇ ◇ ◇

まずマリジェッダが通る道を張り込んだ。
最近は学習意欲が下がったのか、放課後は図書室で勉強をせずに誰もいない空き教室にいるようだった。

その教室に行く前の曲がり角に溶けたスライムの入ったバケツを持って待ち構えた。
マリジェッダが通る瞬間にスライムを撒いて転ばす作戦だ。
エルーナは近づいてくる足音を感じながら息を止める。

「はあ……」

タイミングを合わせて撒いたのに聞こえてきたのはマリジェッダのため息だった。
マリジェッダは撒いたスライムより少し後ろに立っていた。作戦失敗だ。

「人を転ばせて楽しいか?」
「そういう訳じゃないわ」
「だったらなんだ?」
「あなた、私を避けているでしょう?」

エルーナはマリジェッダに詰め寄る。

「なんで……まだスライムが出るんだ。聖女に戻ったんじゃないのか?」
「戻れたのは一回だけよ。あとはずっとこの調子」
「神殿に呼び出されたのは?」
「私、聖女じゃありませんって宣言して、神殿長様と神官長様をスライムまみれにしてやったわ」
「そんなことしたのか?!」
「神殿長様と神官長様は激怒して魔女呼ばわりするし、国内の教会も神殿も出禁になったし、私はただのエルーナなの」

マリジェッダは盛大にため息をついた。