呪われて謎のスライムしか出せなくなった聖女の進路先

馬の嘶きが聞こえてくる。そのあと人の悲鳴も聞こえてきた。
外れた木の車輪がエルーナに向かって物凄いスピードで転がって来ている。

エルーナは脚がすくんで動けない。

「危ない!」

エルーナはマリジェッダに突き飛ばされ、マリジェッダが大きな車輪にぶつかるのが見えた。

「マリジェッダ!」

エルーナは震えながらマリジェッダの様子を窺う。マリジェッダは頭から血を流し倒れている、呼んでも返事はない。

「嘘でしょ……マリジェッダ! 返事して!」

マリジェッダは固く目を瞑ったままだ。
エルーナはマリジェッダを抱きしめた。

まだ聞きたいことがいっぱいある、一緒に行きたいところもある、それに今まで一緒に過ごした思い出がよみがえる。

出会いは滑って転んでカッコ悪いマリジェッダ。
口調は偉そうだけど優しいマリジェッダ。
いつもエルーナを理解して先回りしてくれたマリジェッダ。

エルーナは自然と涙が溢れた。ボロボロと止まらない。

「マリジェッダ!」

スライムでも何でもいいから手に力を込めるエルーナ。エルーナの手から眩しい光が広がり、神聖力が使えるようになっていた。

「!!」

エルーナはマリジェッダの頭を撫でた。
するとマリジェッダが目を開ける。
エルーナはもっと涙が出てくる。止まらない。マリジェッダの左肩から骨盤辺りも治療する。

「聖女様だ」
「こっちも怪我人がいるんだ、助けてくれ!」

エルーナの治療の様子を見て街の人が助けを求めて来た。

「……でも」

エルーナはマリジェッダから離れがたい。

「行ってきてくれないか?」

マリジェッダはエルーナの背中をさする。余計に涙が止まらない。

「うん」

エルーナは涙が乾ききらない内に他の人の治癒を行った。
この祭りで死人は出なかったらしい。

マリジェッダは精密検査を受けるために入院することになる。
エルーナはマリジェッダが心配だが早めに帰国することになった。