雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

実家に帰ると家の中は真っ暗だった。
年老いた両親を起こさないようにかつて自分の部屋だった場所に手探りで足を踏み入れた。

電気を点けるとそこには、あったはずの机も本棚もベッドもなかった。
四角い部屋の真ん中に四角い布団が敷かれているだけだった。

十五年の不在。
駅に着いて真っ先にここへ来るべきだと思った。
でもどうしても足が向かなかったんだ。
怖かったのかもしれない。
結衣のものを目の当たりにする事が。

押入れを開けた。
整然としていた。
おそらく中のものが全部取り出され仕訳けられ、再び納められたのだろう。
あるのは顕微鏡、天体望遠鏡、美術全集などだった。
僕が大量に残して行った教科書やノート、参考書、私物はどこへ消えたのだろう?
でも文句を言える立場じゃない。
不在にするということは、そういう事なのだ。

隅に段ボールが一つあった。
それを外へ引きずり出した。
思ったよりも軽かった。
開けると僕の私物が入っていた。
学年毎の通知表、写真卒業の時もらった寄せ書き、高校の頃付き合っていた結衣からの手紙、
それらのものが時系列的に整理されていた。
おそらく一度熟読され吟味され再び納められたのだ。

こういうことをするのは姉しか居ない。
でも腹はたたなかった。
それよりも少しすっきりした気持ちになった。

結衣。
高校三年生から卒業する直前まで付き合った女の子。
彼女は高校生活に彩を与えてくれた。
モノクロの受験勉強生活を潤いあるものに変えてくれた。
そう。
物事というのは同じものでも見る角度によって大きく変わる。
僕は結衣が書いた手紙を読み返した。
上手い文章だった。
綺麗な字だった。
でもそれだけだった。
本当にそれだけだったんだ。
それ以外にどんな感情も湧いてこなかった。

終わっていたんだ。
ただ時間が必要だっただけだ。
十五年という歳月が。

当時の僕に聞かせてあげたい。
時間が解決してくれるんだよ、と。
だから悲しむことも怒ることも、ましてや恨むこともないんだよ、と。

一番下に白い封筒があった。
でも封が閉じられていた。