雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

生まれ故郷で外食をする、
というのは初めての事かもしれない。

子供の頃、レストランに連れて行ってもらったことはあったけど、それはお子様ランチ的な店で、大人同士が食事以外の目的で挑む店に一度も行った事が無かった。
そもそもそんな機会もないまま、この町を出て行ってしまったんだ。

僕は比較的評判の良いゆっくりと話せる店を探した。
それは直ぐに見つかった。
選択肢というのが少なかったからだ。

二時間前に教えてもらった番号にメールをして、現地で待ち合わせをした。
中に入ると美沙岐は先に来ていた。
隣に座ると僕の顔をじっとみて
「大人になったね」と言った。

僕達はカウンター席からテーブル席に移った。
正面から見る美沙岐も大人になっていた。
熟した大人の女性に。

「いつ戻ってきたの?」

「今日の昼過ぎ。駅に着いてその足でデパートに寄ったんだ。今は有給休暇中で来週から本格的に働く。さっきは仕事の道具を買いにね」

「あの方眼ノート、まだ使っているのね。小学生の頃、私も使ってた」

「大きな紙に手を動かしながら書き込むのが好きなんだ。考えがまとまる。図面も書きやすい。万能なんだ」

「やっぱり建築士になったのね」

「いろいろあったけど、結局はこの道に進んだ。サラリーマンだけど、大きな仕事が出来る」

「向いてると思ってた」

「どうして?」

「中学二年の時、大きな板を切って本棚を作る課題があったでしょ?その時、廊下に張り出されてたジュンの設計図を見て」

「それで?」

「そればかりじゃないけど、父に性格とか似てたからかな」

「今、お父さんは?」

「入院してる。工務店は兄が継いでるの。建築士の試験、落ちつづけてるけど。ジュンはすごいわ。尊敬する」

「すごくはない。建築の設計をするなら持ってて当たり前の資格なんだ。美沙岐のお兄さんは建築の現場管理でしょ?持ってたらステータスにはなるけど持っていなくても仕事は出来る」

「欲しいものはちゃんと手に入れるのね」

「たまたまだよ。これでも必死に取ったんだ。運も良かった」

「高校を卒業して、何してたの?」

「東京の大学に進学したんだ。それからずっと東京にいた。久しぶりの帰省なんだ。美沙岐はずっとこの町にいたの?」

「大阪に就職したのよ。しばらくこの町に居たけど、二十歳を過ぎてから、部活の先輩を頼って。何も聞いてない?」

「聞いてないな。中学の時の同級生とは縁遠くなってるし。加奈子、元気にしてるかな?」

「元気よ。結婚して子供も二人居る。一人は小学生よ。私たちと同じ小学校に通ってるわ。加奈子とは連絡取り合ってない?幼馴染でしょ?」

「全く。加奈子とも高校が違ったからね。実はここを離れて十五年ぶりに帰ってきたんだ」

「それまで一度も帰省せずに?」

「うん。一度も」

「結婚は?」

「してない。美沙岐は?」

「してないわ」

視線が一瞬、重なり合った。

「私達、こんなに話したのって初めてよね」と美沙岐は言った。