雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

部屋に戻ると加奈子はさっきと同じあおむけで寝ていた。
彫刻のように動かなかった。
しばらく見ていたけど、まつ毛さえ動かなかった。
僕は近くにあったブランケットを足元からかけた。

白い脚が隠れこの空間にあった華が影をひそめた。
加奈子はゆっくりと目を開けた。
そして毛布を首までたくしあげ僕を上目遣いで見た。

まどろんだ瞳は半分夢の中だった。

「帰るね」と僕は言った。

加奈子は毛布で顔を覆うようにしながら目でうなづいた。
加奈子が好きだったのは小学生の時の僕で今の僕じゃない。
その事に多少の寂しさがあった。
でもそれは心地よかった。
少なくとも加奈子は僕の味方なんだ。

「じゃあ、また」と僕は言ってリビングから廊下に出た。
扉を閉めると廊下は真っ暗になった。
照明のスイッチらしきものを押したけど何の反応も無かった。
僕は手探りで目の前の薄暗い玄関を目指した。
どうしてこの家の人は照明を取り替えないんだろう?
もしかしたら切れたばかりなのだろうか。
加奈子は何の迷いもなくあの暗い廊下を歩いていた。
慣れ、というものなんだろうか。

どこまでも続く暗いトンネル。
光は確実にある。
出口は見えている。
出口の無いトンネルの事を思った。

どこまでも続く闇の中で方向さえわからない。
誰がそんな場所に好き好んで入ったりするだろう。
それでも時に迷い込んでしまう。
真っ暗で先が見えない。
出口がどこだかわからない。

と、突然廊下が明るくなった。
振り向くと加奈子が立っていた。

「電気のスイッチはどこ?」
加奈子は僕に近づいてきた。
僕の手を取った。
震えていた。
小さな手が壊れるほど震えていた。
僕は加奈子の手を握りしめた。
それでも震えは収まらなかった。


「どうしたんだ?」と僕は言った。