雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

「すこし、喋りすぎちゃったね。こんな話、するつもりじゃなかったんだけど。すきっ腹だと酔いの回りが早いわ。お刺身食べないと。せっかく頂いたのにね。ジュンも食べてよ。お腹空いてない?やっぱり昼間からは飲めないか。そうよね。私、なんだか眠くなってきちゃった。昨日、あまり寝てないの。本当はこの時間、いつもは寝てるんだ。この川を見るとね、ジュンの事を思い出してたわ。割といつでもね」

そういうと、加奈子はソファーに深くもたれ頭を付けて目を閉じた。
横顔は無防備で幼く見えた。
小学一年生の時、まだ僕の家が古く平屋だった頃、加奈子が僕のベッドで寝てたことがあったな。
ずっと姉たちと遊んでいて、鬼ごっことかかくれんぼとかママごととか、そういうことを全部つきあわされて、断れば良いのにずっとついてまわって。

もう大人なのに、その時の寝顔と一緒だよ。
僕たちは同級生なんだ。
同じ時代に同じ空間で同じ空気を吸って過ごした、死ぬまでまぎれもなく同じ歳だ。

僕はソファーから立つと目の前のガラス戸を開けて外に出た。
風が心地良かった。
床はデッキになっていて広かった。
手摺はペンキがはがれかけていたけどその先の川は変わらず、キラキラと輝いていた。
デッキの先端は川に突き出ていて、舟のへさきみたいになっていた。
僕はそこまで歩いて行った。
目の前に川が迫ってきた。
遠くに海が見えた。
美沙岐と行った。
霞んで見えるけど確かにあの場所だ。
僕たちの濃密な時間があった。
僕たちが始まった。

高校生の美沙岐は命を抱えどこを彷徨ったんだろう。
頼れる人は居たんだろうか。
そしてどういう決断を下したんだろう。

でもとにかく美沙岐は生き延びた。
生きて僕の前に現れた。
水面に波が立ち、強い風が吹いた。
水鳥が一斉に飛び立ち、遠くで汽笛が鳴った。

良い場所だと思った。
このデッキはなかなか良い。
テーブルと椅子を並べて食事をしたら美味しいだろうな。

ピクニック。
四人で行った。
加奈子が誘ってくれた。

初恋だと言った。
きっとそうなんだろう。
信じるに値する。
身に余る。
少なくとも僕を、子供の頃の僕を認めてくれたんだ。
僕らは無邪気に遊んだ。
何も知らずに。