雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

そう言えば中学校三年間の中で一度だけ、美沙岐と個人的な会話を交したことがある。
父が土地を買い、新しい家を建てることになった時だ。
その棟梁が美沙岐の父親だったんだ。

何も無いまっさらな土地に縄が張られ、次の日には基礎を作るための穴が掘られた。
ベニアで型枠が組まれコンクリートが流し込まれると基礎の形が出来上がった。
昨日までそこに無かったものが遠い場所からやってきて新しい形になる。
モノづくりという行為を目の当たりにした最初だったのかもしれない。

棟上げ式の日。
棟梁と一緒に美沙岐も手伝いに来たんだ。
基礎の上に土台が敷かれ、あっという間に柱が建てられ、その先端に梁が組まれた。
男衆十人ばかりで、午前中には建物の骨組みが出来上がった。
餅がまかれ大人たちは酒を酌み交わし、子供である僕たち二人が取り残された。

永遠に続くと思われる酒盛りをしり目に僕達はあてもなく歩き始めた。
あれは美沙岐が僕を誘ったんだ。
大人のめくばせをしながら「ここを離れよう」と。

僕も目で同意した。
どこをどう歩いたのかは覚えていない。
気が付いたら大きな川の見える堤防にいた。

僕達は並んで腰を下ろした。
美沙岐は部活の話をした。
走ってばかりで練習がきついと言った。
でも三年生だから次が最後の試合になるかもしれない。
優勝して県大会に行きたいと。

僕も部活の話をした。
たいして熱心に練習はしていなかったけど、よこしまな理由で体育館に居ることを悟られてはいけないと思った。

突然、何の脈略もなく
「ジュンは将来建築士になるの?」
と言った。

考えてみるとその言葉がきっかけだったと思うんだ。
今までぼんやりとしていた興味、みたいなものが、像が、焦点を結ぶ。

堤防に車を停め、あの頃僕らが目にしたものを見ている。
川幅が拡張され、すっかりと変わってしまったけど。