美沙岐を家に送り届けると空席の助手席に目をやった。
さっきまでそこにあったものがなくなる。
ふと、寂しくなった。
僕の中に寂しさを感じる感情が残っていたんだ。
寂しさに打ち勝って生きてきたつもりだったのに。

僕は美沙岐の家に目をやった。
鉄の門。
それはかつて美沙岐の父親が現役で工務店の社長をしていた時に作ったものだろう。
家を守るシンボルとして。
存在感は今も変わらない。だ
けど老朽化が分水嶺を超え、今は朽ちていく象徴のような存在となっている。

その向こうに美沙岐が帰っていった。
僕の知らない世界に。
僕は未だに美沙岐の事を何も知らない。
何を抱え何をためらっているのか。

さっきまで美沙岐が側に居た。
ぬくもりを感じた。
僕の名前を呼んだ。
でもたった一度で何がわかる？
何も知らないのと同じなんだ。
確かだったものが次第に薄れていった。
中学生の時のように無力な僕がそこに居た。