雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

僕はどうしたんだろう?
どうしてしまったんだ?
まだここへ帰ってきて僅かな時間しか経っていない。
ちょっとした感傷で美沙岐に適当な事を言ってるんだろうか。


「僕は、美沙岐の事が好きだった。小学生の頃からずっと。でもそれが何なのかわからずにいた。中学生になってその形が見え始めたころ、君は大人で僕はまだ子供だった。圧倒的な隔たりがあった。そこで僕は諦めてしまった。目を閉じ何も見ないようにして逃げてしまった。でも僕は大人になった。歳を取っただけかもしれない。もしかしたらあの頃のままなのかもしれない。でも、さっき美沙岐に子供が居ると思ったとき、美沙岐を守りたいと思ったんだ」

波の音が聞こえた。
太平洋の波は荒々しく、時折大きな音をたてては静かになった。

「ジュンは成長してるのね。私はダメだわ。いつまでも子供のまま」

そういうと美沙岐は僕の首に手を回した。
僕を見つめた。
光るものが見えた。
僕は美沙岐の瞳に溜まった涙にキスをした。
頬を伝う涙にも。
唇にも。
静かなキスだった。
穏やかなキスだった。
柔らかかった。
そのまま溶けてしまいそうだった。

潮騒の音が聞こえた。
言葉など必要なかった。
体温と息遣いだけで十分だった。

僕は美沙岐を、美沙岐は僕を、必要としている。
それが唇を通して理解できた。

僕は唇から離れ美沙岐を見つめた。
もう涙は無かった。
あるのはキラキラと輝く瞳だけだった。

「美沙岐が欲しい」と僕は言った。
「どこか静かな場所へ」と美沙岐は言った。