雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

この町には大きな川を隔てて左右に二つの海岸がある。
僕はかつて結衣と歩いた海岸と別の方へ来た。
それは意識していたのか無意識だったのか、海岸線を車の中から見ながらそう思ったんだ。
僕は別の場所を選んだんだと。

海は波しぶきをあげていた。
太平洋。
窓を開けると大きな波の音が聞こえた。
さっきまでの雨は上がっていた。

「今日は休みだったんだね」と僕は言った。
美沙岐はうなずいた。

「加奈子、綺麗でしょ?二人の子供を育ててるママには見えないわよね。あんなに華奢なのに」

「僕が知ってる加奈子は中学生で止まってる。陸上部だったな。小学校の頃は足が遅かったけど、中学になったらいつもリレーに出てて、運動会の時、あ、加奈子だって思った。結局、僕は加奈子の事を一年で一度だけしか思い出さないようになっていた。クラスが別々になるってそういう事だったんだ。中学の狭い世界で生きてると気が付かなかった。そうとわかっていたら、これほど関係が希薄になっていくんだと解っていたら僕は。いや、結局解っていても新しい毎日に一杯で、置き去りにしたのかな」

「全部を手に入れるなんて、出来ないのよね。選ぶ間もなく、新しいものに積み上げられる。子供の頃は特に」

「あっという間だった。考える間もなく過ぎ去ってしまった。そして今に至る」

「私も今に至る」

「後悔は?」

「後悔なんて無いわ。それを始めたら壊れてしまうわ」

「その時は僕が守るよ。僕が全力で支える」

「どうしたの?」