雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

「さっき出て行ったわ。たぶん、図書館じゃないかな」と小夜子さんは言った。

僕と小夜子さんの個人的な会話は途切れたまま、宙に浮かんで消えた。

男はカウンターに座り小夜子さんと小声で話し始めた。
小夜子さんは、相槌を打ったり時々にっこりと笑ったりしていた。
こんな田舎に戻ってきて彼女の夫は妻を置いてどこへ消えたんだろう?
コーヒーを飲み干すと急に手持ち無沙汰になった。

そろそろ潮時だ。
僕はカウンターに向かった。
小夜子さんは青年と顔を突き合わせ熱心に話し込んでいた。
声を掛けると顔を上げ金額を教えてくれた。
支払いを済ませると出口でもう一度店内を見渡した。

良い空間だ。
どこにも手を抜いていない。
それでいて余白があり、ここに居る人の気持ちをホッとさせる。

扉の取手は真鍮でおそらくイタリア製だ。
これも彼が探してきたのだろう。
数あるものの中から時間と労力をかけて。
僕は彼に敬意を払い取手に手をかけた。

「ねえ」と後ろから小夜子さんの声がした。

「また来なさいよ。ここにはね、色んな傷を持った人が来るの。あなたもその一人なんだから」

僕は扉を開け光の階段を降りた。

さあ、現実に戻る時間だと思った。