雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。


僕はオムライスとコーヒーを注文した。
女の子が振り返って「ここのオムライス美味しいんだよ」と言った。

「図書館」と思った。
あの二人だ。
イチャイチャカップル。
でも、図書館で見た時よりも幼く見えた。
服装のせいか。
いや、化粧のせいだ。
女の子はすっぴんだ。
そしてまた二人でこそこそと話し始めた。

女主人はコーヒーミルのスイッチを入れた。
強い香りがした。
女の子が席を立って水を運んでくれた。
しばらくすると男の子がオムライスを運んできた。
表情というものは特になかった。
無関心というものではないけど特に関心があるわけではない。
そういう表情だ。

女主人は僕に何か言いたそうだったけど何も言わなかった。
代わりに女の子が「仕事でこの町に来たの?」と言った。

「昨日図書館で見かけたね」と僕は言った。
女の子は男の子と目を見合わせて笑った。
「やっぱり」と女の子は言った。

「僕が小さかった頃は、あんな立派な図書館は無かった」

「この町の出身なの?」

「そうだよ」

「小夜子さんは横浜出身なのよ」と女の子は言った。

そして女主人を見た。
女主人はゆっくりと首を振った。
もうそんな昔の事、忘れたわと言いたげに。
小夜子というんだと思った。

「いいお店ですね」と僕は言った。
お世辞ではない。
本心だった。
誰かが考えに考え抜いて作った空間だ。
それは職業柄わかる。

素人が適当に配置してこれほどの空間が作れるはずがない。
計算しつくされてる。
そして愛情が溢れている。

僕はオムライスを一口食べた。
それは今まで食べたオムライスの中で間違いなく一番、美味しかった。
それほど数を食べたわけではないけど、味にこだわりがあるほうではないけど、それでもこれが特別なものであることは分かった。

「どう?美味しい?」と女の子は自信たっぷりに言った。
僕はうなずいた。
そして小夜子さんを見た。

彼女はどこか遠くを、天井の片隅にあるサーキュレーターの回る羽を見ていた。
僕は女の子を見た。
そしてもう一度うなずいて「美味しいよ」と言った。