雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

「これを伝えに来たのかな?洋介に言われて」
「洋介は関係ないわ。私の意志で来たの」

「もう過去の事だ。全部消したんだ。この町ごと全部。そうしない事には前へ進めなかった。そして何とかやってこれた。ひょんな事からここへ仕事で来る事になった。正直、最初は嫌だった。憂鬱で仕方なかった。ここへ帰って来れば結衣の事を思い出す。目の当たりにする。その時どういう風に感じるのか、その事を考えるだけでも嫌だった。でもいざここへ帰って来て自分でもびっくりするくらい感じなかった。結衣の気配に何も感じなかったんだ。もう何も感じないんだ。でもエリカの言う通り、僕の心は風化していた。だから許せた。でもそれじゃあ本当に許した事にはならない。結衣はあの時僕を裏切った。僕の心を引きちぎりズタズタにした。僕は心から血を流した。いくら押さえても止まる事はなかった。僕はこの町を殺した。記憶から消して二度と帰らない事にした。高校三年間の記憶を封印しお墓を建ててこの土地に埋めた。でもそれは逃げ出しただけだ。この写真をみて理解した。結衣は僕に無いものを求めたんだ。僕には無くて彼には有るものを。僕ではダメだった。だから他に求めた。ただそれだけだったんだ。結衣が一方的に悪いわけじゃない。僕の魅力が欠けていただけだ。今やっと、心のひだで理解した」

「ジュンは魅力的よ」

「ありがとう。救われる」

「結衣を許してくれるのね」

「ああ。心から」

「良かった。これでジュンに招待状が出せる。あの頃楽しかったよね」

「洋介の部屋」

「そう。あの部屋」

「午後、君たちは二人でどこかへ出かけて行った」

「ホテルに行ってるって思ってるだろうなって思ってたわ。でも違うの。家庭教師のところへ行ってたの。私はそのお供。洋介、ジュンに知られたくなかったのよ。自分が家庭教師についてることを。あなただけには知られたくなかったみたい。そういうね、変なプライドがあるのよね。ただの見栄っ張りだと思うんだけど。これ、洋介には内緒ね。今でも絶対に知られたくないはずだから」

「信じられないけどエリカが言うのなら信じるよ」

美しさは徳だ。
あいまいなもの全てが真実になる。

「それとね、今夜私、帰らなくて良いことになってるんだ」とエリカは言った。