雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

会社を出るとあらためて振り返って見た。
豪華なビルだ。
このビルを所有し、その最上階に事務所を構える。残りは賃貸に出している。
いかにも不動産屋的ビルだ。
将来は洋介がここを継ぐのだろう。
役所に知り合いは多い方がいい。
その為に今は市役所で働いている。
合理的だ。

あの父親も元気だから当分は先になるのかもしれない。
いや洋介は結婚すると言っていた。
相手は誰だ?
資産家の娘か。
そうなると洋介の転職も近いかもしれない。
でも昨日、何故言わなかったんだろう?

昨日。
もう随分前の事のような気がする。
昨日。僕たちはキスをした。
奇跡的な特別なキスだった。
幾何学的に揺れる光の線がやってきて、おまわりさんから声をかけられた。
美沙岐は立ち上がり僕も腰を上げた。
そして明日仕事があるからと車で帰って行った。
あの後、誰も来なかったら……。
美沙岐のぬくもりは薄れ、唇の柔らかさだけがいつまでも残っていた。