雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

洋介の実家には何度も行った事があったけど、会社に行くのは初めてだった。
場所は直ぐに分かった。
この町の繁華街のど真ん中にあるんだ。
わからないわけはない。

子供だった僕が洋介の父親と対等な立場で話すというのは不思議な気がした。
対等な立場。
お互い情報を持っている。
その情報は相手にとって価値がある。
大人はそういう情報が大好きだ。

ただし価値が無いと分かると急に態度を変えてそっぽを向く。
それが大人だ。
まるで子供だと何度も思った。
でもそれが笑っちゃうけど大人の世界では大きな手を振って歩いている。
子供みたいな大人の世界。

僕は一人でぶつぶつ言いながらドアを開けた。
重厚で仰々しい大人の扉だ。
小さな女の子なら泣き出してしまう。
でも僕は泣かない。
大きな男の子だから。

「それで?」と洋介の父親は言った。

「話は決定事項です。地権者の根回しは終了しています。あとは行政とのすり合わせだけです。法的に粛々と進めていくだけです」

「噂には聞いていた。銀行や議員、あと同業者から。もう少し先の話だと思っていたけど、まあ今はこんな状況だし、そんなに急がなくてもね、良いとは思っていたけど」

「資金は出口を探しています。今がはじめ時だと上が判断しました。私は一担当に過ぎません。川上で何が模索され思惑され決定しているのか知る由もないし知るつもりもない。だけど川下に事が流れて来た。問題を抽出しあぶり出し、進行を妨げる事柄は排除しなくてはならない。そのためにここに来ました」

「君は洋介の同級生らしいね。このプロジェクトは時間がかかると思うが、いつまでここに居るつもりだ。ゆっくりしていけるのか?」

「私に与えられた時間は僅かです。それに決定権というものがない。ただ突き進む。それが私の役目です」

「そんなに謙遜することはない。これだけ大きなプロジェクトだ。だがまあいい。それで聞きたいというのは?」
やっと本題に入れる。

「土地を横断する水路の件です」
と僕は言った。