雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

「重くない?」
「案外軽い」
美沙岐は靴を逆さまにして水を出し足元に置いた。
そしてつま先を靴の上に置いてバランスを取った。
僕は美沙岐の腰に手を回し、美沙岐の手を取り僕の肩に乗せた。

「この方が安定する」
「確かに」と美沙岐は言った。

「ずっとこうしたかったのかもしれない。中学生の頃からずっと」

「随分、ませた中学生だったのね」

「うぶな中学生だったよ。どうしたいのか、よくわからなかった。どうすれば良いのかも。でも美沙岐の事がずっと好きだった。その気持ちは確かなものだった。伝えるべきなのか、どうやって伝えていいのか、わからなかった。だから手紙を書いた。何枚も書いた。でも全部捨てた。捨てたと思ってたら一通だけ押入れの中から出てきた」

「読んでみたいわ。中学生のジュンの心の中」

「結局は上手く書けてなかった。読んでみたけど的外れなものだった」

「それでもそれはジュンの一部でしょ?」

「僕の全てだったよ」

夜が流れていた。
川の流れと共に。
ひざを通して美沙岐の体温をずっと感じていた。
良いにおいがした。
細い身体を抱きしめたかった。
ただ抱きしめたかった。
だけど動く事が出来なかった。
熱い塊を抱えたまま夜の風を聞いた。
美沙岐の横顔を見続けた。
川の流れを追っている美沙岐の目。
真っすぐに通った鼻。
くっきり浮かんだ唇。
小さな貝殻のような耳。

何かが生まれようとしていた。

「美沙岐」と僕は言った。
ゆっくりと僕の方を向いた。
月明かりの影で表情が読み取れない。
風が二人の間を通り抜けた。
頬に冷たかった。
あるべき場所に何かが欠けている。
僕は美沙岐を引き寄せた。
頬が触れた。
暖かかった。
手を美沙岐の頬に添えた。
暖かさが増した。
川のせせらぎが遠くなった。
柔らかい唇。
再びせせらぎが聞こえた時、唇を離し見つめあった。

美沙岐の二対の瞳は僕を今までとは全く違った場所へと運び込んだ。

「おかえり」と美沙岐が言った気がした。