雷の道「十五年ぶりの故郷で、初恋の彼女と再会した六日間」 ──記憶と現在が交差する、静かな再生の物語。

一瞬、洋介の表情が消えた。彼の実家は不動産屋だ。
市役所勤務は世間体を考えたとりあえずの就職先。
そして不動産の知識はそれなりにある。僕が何を調べていたのか、見当がついてる。

「仕事だよ。この町に建築の計画がある。その調査に来てる。まだ先の話だ。だけど問題は早めに摘み取っておきたい。そんなところだ」
「俺はてっきり結衣に会いに来たんだと思ったよ」
「まさか。あれ以来、会ってない」
「さよならも言わなかったんだって?」
「言う必要ないだろ?」

 洋介は何も言わずにカウンターに向かって手を挙げ、ビールをたのんだ。

「別府。死んだんだよ。三年前だったかな。あいつバスケのコーチしてただろ。試合中、脳卒中で。結衣も葬式に来てた」
「らしいな。風のうわさで聞いた。死ぬにはまだ早かったな」
「ジュンの事、ずっと気にしてた。結衣も」
「別府の事は気の毒だったな。でも忘れた。結衣の事も。あの二人は繋がっていた。僕らが付き合う前から。それが全てだ。それよりも聞きたいことがある。僕が今日調査した土地の件だ。水利権のない水路があるんだ。使われているのに誰が管理しているのかわからない」
「大規模な開発でもするのか?こんな小さな町で?」
「まだ計画段階だ。何も決まってない」
「でも決まると早いだろ?」

確かにその通りだ。
仕事というのは決まるとケツが決まる。
今までちんたらやってたものが急にキッチリ動き出す。

「明日にでも、親父の事務所に来てくれ。話しておくよ。市役所よりも役に立つ。共通の話題もあるはずだ。仕事の話はこれくらいにして今夜は飲もう。久しぶりじゃないか。というかジュンと飲むの、初めてだよな」

僕らは、少なくとも僕は、結衣の話題を避けて高校の頃の話をした。
それはいくらかいびつな形になった。
黄身の無い目玉焼きみたいなものだ。
平坦でのっぺりとしていて中心がない。
高校時代の中心には結衣が居たんだと改めて思ったよ。

別れ際に洋介は
「またこの店で飲もう」と言った。


夜、美沙岐から連絡があった。