芳沢くんは私に堕ちない


よし。

ゆっくりとベンチへと近づく。

「よーしーざーわくんっ!」

彼の前に立ち止まり、少しだけ首を傾げて声をかけると、スマホからゆっくり顔を上げた彼と目が合う。

琥珀色の瞳が私を映す。

「……星宮さん?」

「ふふっ。嬉しい!私のこと知っててくれてるんだ?」

「……まぁ」

「ちょっと隣いいかな?」

驚いた表情を見せた芳沢くんのそばに、答えを聞く前にちょこんと座ってみる。

普通の男の子はここでドキッとした表情をする。

視線を泳がせたり、耳が赤くなったり。

でも。

「……」

芳沢くんは、ただ一瞬だけ私を見て、すぐに視線をスマホに戻した。

そして、ため息みたいに小さく息を吐く。

「何?」

……え?

思っていた反応と、違う。

いや、気のせいだよね。
照れ隠し?

私は一瞬だけ言葉に詰まりながらも、笑顔を崩さないように話す。

「さっき、園田さんと話してたよね?教室から見えたから」

「うん」

「告白、されてたよね?もしかして、断ったの?」

「……それ、星宮さんに関係ある?」

「えっ」

視線をこちらに向けないまま、穏やかな声色で放たれたセリフに、一瞬、返す言葉を見失う。

性格がいい温厚な、爽やか王子とみんなから慕われているけれど……今のセリフ、本当にその芳沢くんの言葉?