「ハルくん‼あの、ちょっと来て!」
休み時間になるなり、かすみちゃんにどこかへ連れていかれた。
「ハルくん。どこか、人のいないところ、知らない?」
照れながら言う。きっと来たばかりで場所もよく分からないのだろう。
「わかった。行こう」
俺は答えて、今度はかすみちゃんを引っ張る。
「ここは俺の隠れスポットなんだ」
「へぇ。マイナーだね」
連れてきたのは空き教室だった。空き教室といっても、ただの教室じゃない。校内の端っこにあって基本的には誰も寄り付かず、秘密の話をするにはぴったりなんだ。
それに……。
「わぁ、綺麗。いい匂い」
窓から身を乗り出しかすみちゃんは言う。そう。窓の外、いわゆるミニベランダには花壇があって、そこに綺麗な花がたくさん咲いているのだ。
「その花、全部俺が育てたんだ」
「ハルくんが?」
初めて空き教室を見つけたとき、古びて長らく誰も使っていない花壇を見つけたんだ。元々ガーデニングが好きな俺はここでこっそり花を育てることにしたんだ。男でガーデニングが好きだなんて恥ずかしくて言えないし、家はマンションで庭がないからできない。まさにうってつけの場所だった。
「綺麗だろ?」
「うん。とっても」
二人して黙って花を見つめる。この時間が嫌いじゃなかったが、そろそろ本題に入らなければいけない。授業が始まってしまう、というか、多分もう始まっている。俺はいいけど、転校初日からサボるのは良くない。
「……かすみちゃん。あの、話って?」
「あ。そうだったね。あのね、すごく大事な話なの」
「え……?」
まさか告白とか?いやないない。自惚れすぎだよ晴太。
「そんなに緊張しなくて大丈夫。ハルくんにとってすごく良い話だと思う」
「いい、話……?」
「うん」
それからかすみちゃんは深呼吸をして――。
「私ね、タイムホールを操れる能力の持ち主なの」
……。…………?
「タイム、ホール……?」
「うん。アニメとかに出てくるあれだよ。未来に行ったり過去に行ったりできるやつだよ」
「それを、かすみちゃんが操れる……?」
「うん。現代の技術ではタイムワープは不可能だよね。でも私にはそれができる」
そんなこと、あるのだろうか……?
「それで、ハルくんに提案があるの」
「え……?」
かすみちゃんは真剣な眼差しで言った。
「過去に行って、ハルくんの恋人さんを助けようよ」
え……?え……⁉
かすみちゃん、今なんて?
俺の恋人を助ける?夕莉を助けるってことか?
でも……。
「な、なんで俺の恋人のことを知ってるんだ?」
「それは……力で知ったんだよ。私の不思議な力で」
はぁ……?
「神崎夕莉さん。それが彼女の名前だよね」
心臓がどくんと跳ねる。本当に、知っている……。
「半年前に交通事故で亡くなった。ミディアムヘアの可愛い女の子だよね」
「お前、本当はストーカーか⁉」
「なわけないでしょ!私ついこの前まで病院にいたんだから」
あぁ確かに。考えにくいか。
「夕莉さんって事故で亡くなったんだよね。その事故を止めることができたら、今も夕莉さんはここにいるはずだよ」
「今も……?」
想像してしまった。もし、過去に行って事故を止めることができたなら……。
今も、すぐそばに夕莉が……。
「本当にそんなことできるの?」
「うん。ただし一回だけね」
「一回?」
「やり直しはできないってこと。一回分の往復しかできないの」
……?
よくわからないけれど、かすみちゃんを信じてみようかな。
「じゃあ、お願いしても……いい?」
「もちろん!任せて。私、ハルくんのためならなんでもするから。あ。でもね」
彼女はいたずらっぽく笑って言った。
「一つ条件があるの」
「条件?」
「うん。あのね……」
「うん?」
「私の学園生活を青春一色にしてほしい」
……。
…………?
「青春一色?」
「うん!私、ほんとに今まで学校に行けたことなかったの。だから高校に来れたのすごく嬉しいんだ。みんなが経験してきたキラキラした青春ってものを感じたいの‼」
「は、はぁ」
「でも私は小学校にすら行ったことがないからね。同年代で話したことがあるのもハルくんくらい。だから青春とか憧れでしかなくて全く分からないの。だから、手伝ってほしい」
「まぁ、そういうことなら。協力するよ」
「ほんと⁉」
かすみちゃんの顔が一気に明るくなる。夕莉を助けてくれるんだし、そのくらいのことは協力しないといけない。
「じゃあ、二週間後!タイムワープして夕莉さんを助けるのは二週間後にしよう。それまで、ハルくんは私の青春生活に付き合ってね」
「はぁ、うん」
「やったね!」
さてと、そろそろ授業に戻らなければ。あ、その前に。
「あのさ、呼び名のことなんだけど」
「呼び名?」
さすがにこのまま「かすみちゃん」って呼び続けるのは幼いと思う。高校生になって男女で下の名前で呼び合うのは本当カップルくらいだし。クラスメイトの俺のイメージは「夕莉しか眼中にない執着男」なわけだし。彼女もいつまでも「ハルくん」呼びは嫌なんじゃないか。それを彼女に伝えると、
「えー、変えなくていいよ。かすみちゃん呼び可愛いじゃん」
「いやでも……」
「言っとくけど、私はハルくん呼びやめないから。絶対」
困るな……。
「あ!じゃあ、ちゃん呼びが嫌なら花澄って呼び捨てにしてよ」
「えっ」
「私苗字呼びだけは絶対嫌!友達だったら尚更」
「うーん……」
まぁ、かすみちゃんよりは花澄って呼んだほうがいいか……?
「わかった。でも人前では苗字で呼ぶからね」
「えー。まぁ……しょうがないか」
よし。そろそろ本当に戻らなければ。授業が始まって半分が経過している。こんなにサボったのは初めてだ。絶対叱られる。
「かすみちゃ……あ、いや花澄。そろそろ授業に戻ろう。君は戻らなきゃ本当にマズイ。転校初日から悪目立ちするぞ」
というか、もう手遅れかもしれないけれど。
「いいの。これが私の最初の青春!」
……今なんて?
「友達と一緒に授業をサボる。これって青春だよね!」
「君は馬鹿だったのか」
「ひど!」
まずは彼女の価値観修正からかもしれないな……。
休み時間になるなり、かすみちゃんにどこかへ連れていかれた。
「ハルくん。どこか、人のいないところ、知らない?」
照れながら言う。きっと来たばかりで場所もよく分からないのだろう。
「わかった。行こう」
俺は答えて、今度はかすみちゃんを引っ張る。
「ここは俺の隠れスポットなんだ」
「へぇ。マイナーだね」
連れてきたのは空き教室だった。空き教室といっても、ただの教室じゃない。校内の端っこにあって基本的には誰も寄り付かず、秘密の話をするにはぴったりなんだ。
それに……。
「わぁ、綺麗。いい匂い」
窓から身を乗り出しかすみちゃんは言う。そう。窓の外、いわゆるミニベランダには花壇があって、そこに綺麗な花がたくさん咲いているのだ。
「その花、全部俺が育てたんだ」
「ハルくんが?」
初めて空き教室を見つけたとき、古びて長らく誰も使っていない花壇を見つけたんだ。元々ガーデニングが好きな俺はここでこっそり花を育てることにしたんだ。男でガーデニングが好きだなんて恥ずかしくて言えないし、家はマンションで庭がないからできない。まさにうってつけの場所だった。
「綺麗だろ?」
「うん。とっても」
二人して黙って花を見つめる。この時間が嫌いじゃなかったが、そろそろ本題に入らなければいけない。授業が始まってしまう、というか、多分もう始まっている。俺はいいけど、転校初日からサボるのは良くない。
「……かすみちゃん。あの、話って?」
「あ。そうだったね。あのね、すごく大事な話なの」
「え……?」
まさか告白とか?いやないない。自惚れすぎだよ晴太。
「そんなに緊張しなくて大丈夫。ハルくんにとってすごく良い話だと思う」
「いい、話……?」
「うん」
それからかすみちゃんは深呼吸をして――。
「私ね、タイムホールを操れる能力の持ち主なの」
……。…………?
「タイム、ホール……?」
「うん。アニメとかに出てくるあれだよ。未来に行ったり過去に行ったりできるやつだよ」
「それを、かすみちゃんが操れる……?」
「うん。現代の技術ではタイムワープは不可能だよね。でも私にはそれができる」
そんなこと、あるのだろうか……?
「それで、ハルくんに提案があるの」
「え……?」
かすみちゃんは真剣な眼差しで言った。
「過去に行って、ハルくんの恋人さんを助けようよ」
え……?え……⁉
かすみちゃん、今なんて?
俺の恋人を助ける?夕莉を助けるってことか?
でも……。
「な、なんで俺の恋人のことを知ってるんだ?」
「それは……力で知ったんだよ。私の不思議な力で」
はぁ……?
「神崎夕莉さん。それが彼女の名前だよね」
心臓がどくんと跳ねる。本当に、知っている……。
「半年前に交通事故で亡くなった。ミディアムヘアの可愛い女の子だよね」
「お前、本当はストーカーか⁉」
「なわけないでしょ!私ついこの前まで病院にいたんだから」
あぁ確かに。考えにくいか。
「夕莉さんって事故で亡くなったんだよね。その事故を止めることができたら、今も夕莉さんはここにいるはずだよ」
「今も……?」
想像してしまった。もし、過去に行って事故を止めることができたなら……。
今も、すぐそばに夕莉が……。
「本当にそんなことできるの?」
「うん。ただし一回だけね」
「一回?」
「やり直しはできないってこと。一回分の往復しかできないの」
……?
よくわからないけれど、かすみちゃんを信じてみようかな。
「じゃあ、お願いしても……いい?」
「もちろん!任せて。私、ハルくんのためならなんでもするから。あ。でもね」
彼女はいたずらっぽく笑って言った。
「一つ条件があるの」
「条件?」
「うん。あのね……」
「うん?」
「私の学園生活を青春一色にしてほしい」
……。
…………?
「青春一色?」
「うん!私、ほんとに今まで学校に行けたことなかったの。だから高校に来れたのすごく嬉しいんだ。みんなが経験してきたキラキラした青春ってものを感じたいの‼」
「は、はぁ」
「でも私は小学校にすら行ったことがないからね。同年代で話したことがあるのもハルくんくらい。だから青春とか憧れでしかなくて全く分からないの。だから、手伝ってほしい」
「まぁ、そういうことなら。協力するよ」
「ほんと⁉」
かすみちゃんの顔が一気に明るくなる。夕莉を助けてくれるんだし、そのくらいのことは協力しないといけない。
「じゃあ、二週間後!タイムワープして夕莉さんを助けるのは二週間後にしよう。それまで、ハルくんは私の青春生活に付き合ってね」
「はぁ、うん」
「やったね!」
さてと、そろそろ授業に戻らなければ。あ、その前に。
「あのさ、呼び名のことなんだけど」
「呼び名?」
さすがにこのまま「かすみちゃん」って呼び続けるのは幼いと思う。高校生になって男女で下の名前で呼び合うのは本当カップルくらいだし。クラスメイトの俺のイメージは「夕莉しか眼中にない執着男」なわけだし。彼女もいつまでも「ハルくん」呼びは嫌なんじゃないか。それを彼女に伝えると、
「えー、変えなくていいよ。かすみちゃん呼び可愛いじゃん」
「いやでも……」
「言っとくけど、私はハルくん呼びやめないから。絶対」
困るな……。
「あ!じゃあ、ちゃん呼びが嫌なら花澄って呼び捨てにしてよ」
「えっ」
「私苗字呼びだけは絶対嫌!友達だったら尚更」
「うーん……」
まぁ、かすみちゃんよりは花澄って呼んだほうがいいか……?
「わかった。でも人前では苗字で呼ぶからね」
「えー。まぁ……しょうがないか」
よし。そろそろ本当に戻らなければ。授業が始まって半分が経過している。こんなにサボったのは初めてだ。絶対叱られる。
「かすみちゃ……あ、いや花澄。そろそろ授業に戻ろう。君は戻らなきゃ本当にマズイ。転校初日から悪目立ちするぞ」
というか、もう手遅れかもしれないけれど。
「いいの。これが私の最初の青春!」
……今なんて?
「友達と一緒に授業をサボる。これって青春だよね!」
「君は馬鹿だったのか」
「ひど!」
まずは彼女の価値観修正からかもしれないな……。


