17年後、七夕で。

「ハルくん!早く、はやく~!」
「待ってよかすみちゃーん!」
女の子に引っ張られ、僕はベランダに出る。ベランダには、いつもはないはずの大きな笹の葉があった。たくさんの紙もつるしてある。
「ほーら、手、つなご?」
「ぼくもう子どもじゃないよ」
そうはいったが、僕は立派な子供だ。だって六歳だし。ただ単純に、この可愛すぎる女の子と手を繋ぐのが恥ずかしかっただけ。
「今日はね、七夕なんだよ」
「たなばたってなぁに?」
何も知らない僕は聞く。
「バラバラにされちゃたひこぼしさまとおりひめさまが、ゆーいつ会える日なの」
気が付くと、女の子――かすみちゃんは、僕の手を取っていた。
「短冊に願いを書いてかざるとね、願いがかなうんだ!」
僕たちは短冊が書けるコーナーに移動して座る。かすみちゃんは紙とペンを持っていた。
「あたし毎年書いてるの」
「何を書くの?」
「ふふん。去年のは、これ!」
かすみちゃんはポケットから紙を取り出す。ちょっとくしゃくしゃになった、青緑の紙。
そこには、「はやくたんいんできますように」と、かすみちゃんの字で書いてあった。
「すごいでしょ。あたし、もう字が書けるの」
「うん。すごい」
僕はまだ字は読めるけど書けないから。
「でもね、今年はちがうこと書くの」
「え?」
かすみちゃんは、新品の青緑の紙にペンを走らせる。
「じゅうねんごにハルくんのおねがいがかないますように。さわだかすみ。」
かすみちゃんはそう書いた。
「ありがと。でも、なんで十年後?」
「だって、今すぐハルくんが病院からいなくなっちゃったら寂しいもん……」
「うん。そうだね」
「十年後もいっしょにいてね?ハルくん」
「うん。――もちろん」
……けれど、所詮は幼稚園児同士の約束。果たせなかったし、――果たして、くれなかった。