今日は私が仁奈の保育園、理人が朔都の学童のお迎えなので途中でわかれて保育園に向かう。
保育園の門の前には、仕事帰りの保護者たちがぽつぽつと集まりはじめていた。

園庭のすみで、仁奈が小さなグループの中に混ざって、砂遊びをしているのが見えた。
「にーなー!」
声をかけると、仁奈はぱっと顔を上げて、満面の笑顔で駆け出してくる。

「おねえちゃーん!!」
「おつかれ、仁奈!」
都花がしゃがむと、仁奈が勢いよく抱きついてきた。
小さな体が夕日を浴びて、ほんのりあたたかい。

「今日もいっぱい遊んだの?」
「うん! おままごとしたの! あとね、ブランコでゆらゆらしたの!」
「へぇ〜、楽しそうだね」

そこへ担任の先生がやってきて、にこやかに会釈する。
「都花ちゃん、いつもありがとう。仁奈ちゃん、今日はとっても元気でしたよ」
「そうなんですね、よかったです」
「でもね、途中で“お兄ちゃんまだかな〜”ってちょっと寂しそうにしてました」
「ほんと? ……理人に言っとこ」
「えへへ〜、お兄ちゃんとあそびたいの!」と仁奈。

先生が笑いながら続ける。
「明日はおうちの方が帰ってくるんだって?」
「はい、そうなんです。二年ぶりなので、みんなちょっとそわそわしてて」
「楽しみねぇ。仁奈ちゃんもおめかしするって話してたのよ」
「えへへ、かわいいおようふく着るの!」
「そうかぁ。きっとパパとママ、びっくりしちゃうね」

先生と軽く会釈を交わして、園をあとにする。
仁奈の手は少し温かくて、指先がまだ砂でざらざらしていた。

「ねぇ、おねえちゃん」
「ん?」
「ママとパパ、ほんとにあしたくる?」
「うん、ほんとに。飛行機で帰ってくるよ」
「……ママ、にーなのことわかるかな?」
「もちろんわかるよ」
都花は笑って仁奈の頭をなでた。
「仁奈、ちょっとお姉さんになったけど、ちゃんとママだってわかるよ」
「そっかぁ……」
仁奈が胸に手を当てて、少し照れくさそうに笑った。
「じゃあ、ママに“おっきくなったでしょ!”って言うの!」
「うん、きっと喜ぶよ」

家に帰ると、玄関の奥から朔都の声がした。
「おかえりー! 仁奈ー、今日なにしてた?」
「さくちゃん! おままごとしたー!」
仁奈が靴を脱ぎ捨てて走り込み、朔都の手をつかむ。

リビングでは理人がエプロン姿で夕食の支度をしていた。
「お、帰ったか。おかえり、仁奈」
「おにいちゃん、ママたちほんとにあしたくるんだよね?」
理人はふっと笑ってうなずく。
「ああ、ほんとだよ。明日、みんなで迎えに行こうな」

仁奈と朔都が「やったー!」と手をたたいて跳ねる。
都花はその光景を見ながら、胸の奥があたたかくなった。