靴箱でスニーカーに履き替え、二人で教室へ向かう。
途中、すれ違う友達がにやにやしながら声をかけてきた。
「おはよー理人ー、都花ー! 今日も夫婦登校っすかー?」
「お、朝から仲良しだな〜!」

都花はぴたりと足を止める。
「ふ、夫婦ってなにそれ!」
理人は苦笑しながら片手を上げる。
「いやいや、違うから。いつも一緒なだけ」
「はいはい、そういうのが一番あやしいんだって~」

廊下のあちこちで笑いが起こる。
都花は頬をふくらませながら、理人の袖を小突いた。
「もう、理人が反論しないから余計に言われるんだよ!」
「反論してもしなくても言われるやつだろ、これ」
「……それはそうかも」

教室に入ると、すでに何人かのクラスメイトが談笑していた。
理人は窓際の席に座り、都花も隣に腰を下ろす。
朝の光がカーテンを透かし、ノートの上に柔らかく落ちた。

「ねぇ理人、昨日の数学の宿題できた?」
「正直に言うと、途中で寝た」
「ほらね、やっぱり!」
都花がノートを差し出すと、理人が身を寄せてのぞきこむ。

「ほら、ここ。グラフの式のとこ違うよ」
「ん、マジか……あ、ほんとだ。都花先生ありがと」
「どういたしまして」

その瞬間、後ろの席の男子が声を上げた。
「おいおい、朝からイチャイチャしてるぞー!」
「もう夫婦公認でいいんじゃね?」

教室がどっと笑いに包まれる。
都花の顔が一瞬で赤くなり、理人は机に肘をついて笑いをこらえた。
「……おまえらほんとヒマだな」
「否定しない理人が悪いんだって~!」

都花は頭を抱えながら、半分笑い、半分あきれ顔でつぶやいた。
「……もう、こういうの慣れちゃいそうで怖い」
「まぁ、夫婦って言われるのも悪くないけどな」
「……はぁ!? なにそれ」
「冗談、冗談」
理人は肩をすくめ、笑いながらノートをめくる。

チャイムが鳴り、ざわめきが少しずつ落ち着いていく。
都花はため息をつきながら、前を向いた。
頬の熱がまだ少し残っている。