身支度を終えると、理人は机に腰を下ろしてタブレットを開いた。
「……今日も来てるな。」

彼の呟きは、いつもの朝の合図みたいなものだ。
海外にいる両親からのメールには、砂漠でラクダに乗った写真とか、市場でスパイスを見つけた話とか。
まるで旅のパンフレットを見ているようで、読むだけで世界が広がる。

その間に私は台所で弁当と朝ごはんの準備。
卵を割り、フライパンに落とすと、じゅっと小さな音が響く。

「今日も卵焼き?」
「うん。あんたの好物でしょ。」
「……やっぱ都花って、将来いいお嫁さんになると思うんだよなぁ。」

「っ……!」

思わず手が止まる。卵が少し焦げかけて、慌てて菜箸を動かした。
理人は悪びれもせず、にやにやしながらタブレットに視線を戻す。

「……からかってるだけでしょ。」
「さあ、どうかな。」

その時、理人がふと手を止めた。

「……え?」

「どうしたの?」

「両親からだ。都花んちの分も来てる。」

理人が画面をこちらに向ける。そこには短いけれど、心臓を跳ねさせる一文があった。

『明日、帰るよ。ハッピーな発表あり!』

「……え、あした!?」

思わず声が裏返る。菜箸を落としそうになって、慌てて握り直す。