夕ごはんの後、いつもよりにぎやかな声がリビングに響いていた。
テレビは消してあるのに、笑い声が途切れない。

「ねぇねぇ、ママたちが来たら、最初になんて言おうかな!」
仁奈がソファの上でくるくる回りながら聞く。
「“おかえりなさい!”でいいんじゃない?」と都花。
「それじゃふつうー!」と朔都がすかさず突っ込む。
「俺は“ひさしぶり! サッカーしよう!”って言う!」
「またサッカー!? 朔都らしいけどね」

理人はダイニングテーブルで折り紙を広げていた。
「……なにしてるの?」と都花がのぞきこむと、
「ウェルカムボード作ってる。仁奈と朔都が描いてくれた絵も貼ろうと思って」
「わぁ、いいねそれ!」
都花が目を輝かせると、仁奈もすぐ駆け寄ってきた。

「にーな、ママとパパの絵かいたの!」
「うん、これな。……頭の上に星ついてるけど」
「だってママきらきらしてるんだもん!」
「なるほどな」
理人が笑って、優しくテープで貼りつける。

朔都は黙々と文字を書いていた。
「“WELCOME BACK!”って英語で書いたよ。かっこいいでしょ?」
「おお〜!」
「理人、朔都すごいよ!」と都花が声をかけると、
理人は朔都の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「やるじゃん、小3とは思えんセンス」
「えへへ」

部屋の真ん中には、色とりどりの紙とペンと折り紙が散らかっている。
でも、誰も片付けようとはしなかった。
それぞれが“明日のために何かをしていた”。

都花は、静かにノートを取り出した。
小さな封筒と便せん。
「それなに?」と理人が尋ねる。
「手紙。ママに書こうかなって思って」
「へぇ、都花らしいな」
「理人は書かないの?」
「俺? ……んー、手紙はちょっと照れるけど、写真は渡そうと思ってる」
「写真?」
「去年、みんなで花火したときのやつ。データ送っても見てないっぽいし」
「うわ、それいいね!」

仁奈が眠そうにあくびをしながら、都花の膝に寄りかかる。
「おねえちゃん……ママ、にーなのことびっくりするかな」
「うん、きっと“お姉さんになったね”って言うよ」
「えへへ……」

理人がそっとブランケットをかけてやる。
「そろそろ寝るか、仁奈」
「やだー、ママに会うまで起きてたいー」
「明日寝坊したら会えないぞ?」
「……うぅ、ねる……」
結局、理人の腕の中でコテンと眠ってしまった。

都花がその様子を見ながら、小さく笑った。
「ねぇ理人」
「ん?」
「なんか、こうしてると……ほんとの家族みたいだね」
理人は少しだけ驚いた顔をして、
それから柔らかく目を細めた。

「……ほんとに、そうだな」
「うん」

時計の針がゆっくりと進む。
明日の朝が、近づいてくる。