ビデオ通話開始ボタンを押すともう2人は話し始めていた。

瑠璃が気づいてぷくーっと頬を膨らませる。


「あげあげおっそ〜い」


「2人が早すぎるだけだよ」


棒付きキャンディの包み紙を開き口に入れる。

やっぱりプリン味は美味しい。

本物とはまた違った甘さに脳内が幸せになりながら話を振った。


「で、なんの話ししてたの?」


「なにってダブルデートの話だよ」


見たことがないほどの笑みを浮かべる瑠璃に恋って凄いなぁと他人事のように感じる。

にしてもモルフォがいい返事をするとは意外だった。

きっと面白そうだからとかいう理由だろう。

彼の部屋は庶民とは違って見るからに質の良さそうなベッドや小物類が見えている。

対する瑠璃はぬいぐるみやリボンの着いた洋服など非常に可愛らしい。

私は必要最低限の物さえあればいいので、シンプルだ。

良く言えばホテルの部屋みたいである。


「それでさ、デートってどこがいいと思う?」


「遊園地とかは?」


この話をモルフォから聞いた時これしか思いつかなかった。

散々読まされている瑠璃のオススメ漫画では2人きりになっても違和感がない場所がセオリーだ。

となると遊園地は結構いいと思う。

適当に「私あれ乗りた〜い」とか言っとけばいいんじゃないか。

まだ形を保っている飴をガリッと噛み砕いて2人の反応を伺う。

瑠璃には好印象だったがモルフォはキョトンとしている。


「不満があるならちゃんと言ってねモルフォ」


名指しで彼に視線を向けると肩がビクッと上下した。

明らかに戸惑っている。

喋り出すまでただ黙って口が開くのを待つ。

薄い唇が形を作った。


「その……行ったことないからあんまり分かんなくて」


恥ずかしそうに顔を隠す彼は精巧な自動人形のように可愛らしい。

事情を知らない男子がいたら惚れてしまうぐらいには罪な表情を浮かべている。


「じゃあ行こうよ!絶対楽しいし!」


「そうだね、燕くんにも連絡しなきゃ……瑠璃」


「任された!」


太陽みたいに笑う彼女はスマホを持ってゴロゴロと転がる。

そのせいでこっちは画面酔いしそうだ。

はぁっと浅くため息をついてモルフォを見る。

控えめにはにかみながら興奮を抑えきれていない姿は年相応な男子だろう。

あっそうか。

燕くん達と別れたらモルフォと2人きり……。

私がなんとしてでも楽しませなくちゃ!


「鳳も楽しみ?」


「まぁね。最近行ってなかったし」


瑠璃は燕くんと電話すると言って一旦居なくなった。


「ねぇ鳳」


「ん?」


「デートの日ってさ……どっちで来るの?」


どっち、というのは恐らく姿のことだろう。

黒髪ストレートロングにナチュラルメイクのマドンナスタイルか黒髪ショートにリップだけ塗ったラフスタイルか。

答えはもちろん決まっている。


「学校の時と一緒だよ。けど、モルフォと一緒の時はこっちにするつもり」


ニカッと笑ってみせると彼の表情は明るくなった。


「マドンナスタイルは嫌い?」


そう問うと首をブンブン振った。

綺麗にまとまっていた髪が解け落ちるが、構わずスマホとの距離を詰める。


「違うけどっ!なんか何考えてるか分かんなくてあんまり好きじゃないって言うか」


「私もモルフォの王子様スタイル好きじゃないかなぁ。なんか性格悪そうだし」


「何それ……まぁ否定はしないけど」


「しないんかい」


ピコンっと人間の口からは出ないような音が鳴った。


「あげもる〜!誘えた!」


聞いたことがない単語に一瞬耳を疑ったが、いちいち突っ込んでもいられないため「良かったね」と答えた。

感情表現が豊かな彼女は見ていて飽きない。

携帯の画面上部にトーク画面が流れた。

燕くんからだ。

『どうしよう鳳さん、縦波さんにゆうえんち誘われちゃった!!』


『燕くんの出かける時の服ってどんな感じ?』


無意識に口角が上がっていたのだろう。

瑠璃から質問されて、わたしはゲームのガチャでレアキャラが出たと言っておいた。

電話中にゲームぅ?と不満を(あらわ)にされたがしょうがない。

まだ燕くんが瑠璃を好きだということは秘密なのだ。

両思いだと言うことを口走ってしまったならば、それはロマンスをぶち壊しかねない。

誰でも自分が燃えていることのネタバレをされたら萎えるものだ。

……知らないけど。

その後も瑠璃がいかに燕くんのことが好きだということを延々と聞かされ続けた。

聞こえは悪いが素直に嬉しそうな彼女の姿に頬は緩むばかりだ。

約3時間ぐらいだらだらと、いや恋の相談は終わり私は燕くんに連絡をしている。

彼の服は良く言えばシンプル、悪く言えば地味。

瑠璃に釣り合うようにして欲しいと頼まれたのでもう少し派手さを加えた方がいいだろう。

なので今回はモルフォではなく私の妹、(あかね)を召喚した。


「Tシャツでも無地じゃなくて何か写真とかロゴとか入ったやつとかアクセサリー足してもいいんじゃない?」


金色の束ねた髪がエアコンの風で揺れる。

やっぱり化粧を落とした姿は私と瓜二つだ。

普段と違いすぎてマジマジと見つめてしまう。


「鳳見すぎだよ」


「ごめん、普段と違いすぎて」


「それは鳳も一緒でしょ」


ベッと舌を出した茜は子供みたいだった。


「まぁたしかにね」


「よくあんな優等生演じれるよね」


「慣れたら楽だよ?」


「慣れすぎるのも駄目だと思う」


まだ外されていないピアスが照明に反射してキラリと光る。

私も穴開けて見ようかな……。

ふっと耳たぶを触る。

茜は一瞬こちらに目をやったが、すぐにスマホへと視線は移された。

彼女は勝手に私のスマホで文字を打ち始め燕くんが戸惑う姿なんとも面白い。

後で誤解をとかなくちゃなぁとか思考は別の場所にいる。

私だけじゃ決まらなかったことがサクサクと決まっていく。

シンプルすぎる服装は一転してイケてる服装に変わった。

さすが流行を追うのが得意な妹だ。

勝手に誇らしげな気分になって茜の頭を撫でる。


「ちょっ鳳」


「いいじゃ〜ん。私の可愛い茜ちゃ〜ん」


「鳳の猫撫で声キモイ」


辛辣な言葉を言われたが事実なのでしょうがない。

少し不満気な茜は何かを思い出したのかぽかんと口を半開き状態で固まった。


「鳳……恋人出来るの?」


「えっなんで」


茜は興奮気味に私の両肩をガっと掴む。

力は弱いので全然痛くない。


「だってダブルデートなんでしょ?つまり鳳にも恋の予感があるってことじゃ」
「ないない、無いから……」


「ちぇ〜」


つまらなそうに口を尖らせる彼女はお風呂に入ると言って部屋から出て行った。