今日は瑠璃に呼び出されて校舎裏に来ている。
少女漫画なら定番の告白シーンなのだろうか。
「あっ来てくれたんだ!」
「まぁね」
「化けの皮がベロベロに剥がれまくってるね〜」
人の良い笑みを浮かべる彼女に言語化出来ない感情が噴水のように湧き出す。
それは良いものなのか否か僕には分からない。
長くキラリと光る爪が僕を突き刺す。
「もるもるの恋のお手伝いする代わりにぃ……あたしの恋も手伝って!」
大きな瞳がきゅるりと輝く。
まぁその提案に特に不審な点もないのでこくりと頷いた。
「分かったけど、で、誰が好きなわけ?」
基本恋愛に関しては恨まれる立場なのでなんか新鮮だなと思う。
これが青春なのかなとか考えちゃって。
ギラギラと色んな光を反射するスマホケースが表を向く。
「実はさぁつばめんのことちょー好きなんだよね♡」
思わず目を開く。
まさかの両思い。
ここで彼が瑠璃のことを好きなんだと言おうと口が開く。
だけど鳳の悲しそうな顔が脳を支配した。
今まで見た事ないけどそんな顔されたら嫌だな。
1度開いた口を閉じて、ニコッと笑う。
「どんな所が好きなの?」
「えっとねぇ〜顔がどタイプ!後はねぇ気遣い上手な所かな」
そう語る彼女はちょっとだけ頬が赤くなっている。
これが恋する乙女と言うやつかと呑気なことを思い浮かべた。
鳳もこんな表情するのかな。
蒸し暑い風が2人の間を吹き抜けた。
「手伝いって具体的に何すればいいの?」
「え〜何だろ?」
「分かんないのかよ」
「だって都合よく2枚映画のチケットとか持ってる子とか見た事ないよ」
多分少女漫画ではそういう立ち回りのキャラクターがいるんだろう。
また暇だったら読んでみるか。
瑠璃はうーんと唸って頭上に電球でも出ていそうな顔になった。
「ダブルデート……ダブルデートは!?」
「ダブ……えっ?」
聞いた事の無い言葉に思わず聞き返した。
恐らく4人でどこかに出かけるということだろうか。
若干嫌な予感はするがどうするか……。
瑠璃は期待に満ち溢れた瞳で僕を凝視する。
止めろそんな目で見るな。
ここで断ったら僕が悪いやつみたいじゃないか。
……いや違う、考えるんだモルフォ。
燕と瑠璃をくっつけるためのデートだとしたら鳳は絶対に来る。
んでもって途中で別れてみろ。
完全なる2人きりのデートだ。
ニコリと口角をあげて微笑む。
「いいよ」
「まじで!?やった!」
彼女は嬉しそうに飛び跳ね僕に抱きついてきた。
「ちょっ、他の人に見られたら誤解されるだろ!?」
「え〜大丈夫でしょ〜」
きゃははっと高い声を響かせる瑠璃は本当に嬉しそうだった。
僕もぎゅっと抱きしめる。
その後、チャイムが鳴る前に自分の教室へ戻った。
太陽が傾いて日差しが少し弱まった時間。
僕は鳳に今日の昼に瑠璃から提案されたことを話していた。
キリッとした目にドキッとする。
「なるほどねぇ。いいんじゃない」
いつもより平坦な声。
……怒っている?
鳳はよそ行きの顔で笑っていた。
僕らの関係に亀裂が入りそうで思わず口を開く。
「言いたいことがあるなら言ってよ」
心臓がバクバクうるさい。
こんなに怖いのは初めて父さんに殴られた時以来か。
目が合う。
「瑠璃と抱きついてたのってどういうこと?」
急に首を絞められたみたいに息が出来なくなる。
1番見られたくない子に見られた。
早く言わないと。
誤解をとかないと。
早く……早く早く早く。
「あれはっ!!」
緊張で声が裏返る。
落ち着こうとして必死に呼吸を繰り返す。
が、かえって焦ってしまい息がどんどん詰まっていく。
崩れ落ちそうになった時マドンナが支えてくれた。
「別に怒ってないから落ち着こう」
背中をさすられて少し気分が良くなる。
鳳の顔は普段の僕といる表情になった。
ふぅっと重苦しい二酸化炭素を出して、メタリックブルーの瞳を見つめる。
「瑠璃に恋の手伝いをしてほしいって言われて……それにいいよって返事したら抱きつかれて」
「なるほどね。予想はついてたけど」
「ついてたならなんであんな顔したの!」
「いや、わんちゃんモルフォが瑠璃のこと恋愛的に好きになったらどうしようかと思って」
鳳は手で作ったハートマークをパキンと割った。
逆ギレするのはお門違いだと分かっているが、それぐらい怖かったのだ。
ちょっとは許して欲しい。
余裕そうに欠伸を噛み殺す彼女にちょっと意地悪をしたくなった。
「じゃあもし僕が本当に瑠璃のことを好きになったらどうする?」
「………………嫌」
ふいっと顔を背けられてしまって表情は分からなかった。
けれど肘でトンっとこつかれたのがなんだか嬉しい。
多分鳳は燕のことを考えて言ったんだろうけど、そうだったらもっと早く応えただろう。
少しは僕のことを意識してくれてるのかな……なんて。
まだ先かな。
何分か経ってようやく振り向いた鳳は「あっ」という感じで問いかけてきた。
「瑠璃の恋の手伝いってことは、あの2人って両思い!?」
「そういうことだね」
マドンナがしてはいけない顔になってしまった鳳は僕の手をぎゅっと握った。
鼓動が早くなる。
「これは使えるよモルフォ!」
「えっ!?あっうっうん!そうだね!」
顔が赤いのバレてないよな?
手が離れた後、両手で頬を包み込む。
楽しげに鼻歌を歌う彼女はどこかに連絡をしている。
今時の女子高生とは思えないほどシンプルなスマホケースだ。
もっと華やかなものを持っていてもおかしくはない。
不意にあの日のことが脳内で再生される。
僕が転校してきた日。
印象としてはモテるんだろうなぁと漠然的に考えた。
後、僕と似たもの同士だとも。
けれど実際は違った。
彼女はもっと強かった。
僕みたいに弱くは無い。
「モルフォ、いつ予定空いてる?」
「鳳のためならいつでも空けるよ」
ふっと言葉が風に乗って流れた。
それに少しの違和感を覚えたらしい鳳は小首を傾げたが、すぐに「分かった」と言った。
「今日の夜、3人でビデオ通話したいんだけどさ」
「分かった」
ニコッと笑う。
まだまだ明るい夕日が彼女を照らす。
今にも白い羽が舞ってどこかに連れていかれそうになる。
このまま出てはいけない言葉が出そうだ。
たった2文字。
僕はそれを伝える日が来るのだろうか。
もしかしたら全く知らないやつに横から奪われてしまうのではないか。
そんなことになったら……。
僕は素直に喜べるのだろうか。
少女漫画なら定番の告白シーンなのだろうか。
「あっ来てくれたんだ!」
「まぁね」
「化けの皮がベロベロに剥がれまくってるね〜」
人の良い笑みを浮かべる彼女に言語化出来ない感情が噴水のように湧き出す。
それは良いものなのか否か僕には分からない。
長くキラリと光る爪が僕を突き刺す。
「もるもるの恋のお手伝いする代わりにぃ……あたしの恋も手伝って!」
大きな瞳がきゅるりと輝く。
まぁその提案に特に不審な点もないのでこくりと頷いた。
「分かったけど、で、誰が好きなわけ?」
基本恋愛に関しては恨まれる立場なのでなんか新鮮だなと思う。
これが青春なのかなとか考えちゃって。
ギラギラと色んな光を反射するスマホケースが表を向く。
「実はさぁつばめんのことちょー好きなんだよね♡」
思わず目を開く。
まさかの両思い。
ここで彼が瑠璃のことを好きなんだと言おうと口が開く。
だけど鳳の悲しそうな顔が脳を支配した。
今まで見た事ないけどそんな顔されたら嫌だな。
1度開いた口を閉じて、ニコッと笑う。
「どんな所が好きなの?」
「えっとねぇ〜顔がどタイプ!後はねぇ気遣い上手な所かな」
そう語る彼女はちょっとだけ頬が赤くなっている。
これが恋する乙女と言うやつかと呑気なことを思い浮かべた。
鳳もこんな表情するのかな。
蒸し暑い風が2人の間を吹き抜けた。
「手伝いって具体的に何すればいいの?」
「え〜何だろ?」
「分かんないのかよ」
「だって都合よく2枚映画のチケットとか持ってる子とか見た事ないよ」
多分少女漫画ではそういう立ち回りのキャラクターがいるんだろう。
また暇だったら読んでみるか。
瑠璃はうーんと唸って頭上に電球でも出ていそうな顔になった。
「ダブルデート……ダブルデートは!?」
「ダブ……えっ?」
聞いた事の無い言葉に思わず聞き返した。
恐らく4人でどこかに出かけるということだろうか。
若干嫌な予感はするがどうするか……。
瑠璃は期待に満ち溢れた瞳で僕を凝視する。
止めろそんな目で見るな。
ここで断ったら僕が悪いやつみたいじゃないか。
……いや違う、考えるんだモルフォ。
燕と瑠璃をくっつけるためのデートだとしたら鳳は絶対に来る。
んでもって途中で別れてみろ。
完全なる2人きりのデートだ。
ニコリと口角をあげて微笑む。
「いいよ」
「まじで!?やった!」
彼女は嬉しそうに飛び跳ね僕に抱きついてきた。
「ちょっ、他の人に見られたら誤解されるだろ!?」
「え〜大丈夫でしょ〜」
きゃははっと高い声を響かせる瑠璃は本当に嬉しそうだった。
僕もぎゅっと抱きしめる。
その後、チャイムが鳴る前に自分の教室へ戻った。
太陽が傾いて日差しが少し弱まった時間。
僕は鳳に今日の昼に瑠璃から提案されたことを話していた。
キリッとした目にドキッとする。
「なるほどねぇ。いいんじゃない」
いつもより平坦な声。
……怒っている?
鳳はよそ行きの顔で笑っていた。
僕らの関係に亀裂が入りそうで思わず口を開く。
「言いたいことがあるなら言ってよ」
心臓がバクバクうるさい。
こんなに怖いのは初めて父さんに殴られた時以来か。
目が合う。
「瑠璃と抱きついてたのってどういうこと?」
急に首を絞められたみたいに息が出来なくなる。
1番見られたくない子に見られた。
早く言わないと。
誤解をとかないと。
早く……早く早く早く。
「あれはっ!!」
緊張で声が裏返る。
落ち着こうとして必死に呼吸を繰り返す。
が、かえって焦ってしまい息がどんどん詰まっていく。
崩れ落ちそうになった時マドンナが支えてくれた。
「別に怒ってないから落ち着こう」
背中をさすられて少し気分が良くなる。
鳳の顔は普段の僕といる表情になった。
ふぅっと重苦しい二酸化炭素を出して、メタリックブルーの瞳を見つめる。
「瑠璃に恋の手伝いをしてほしいって言われて……それにいいよって返事したら抱きつかれて」
「なるほどね。予想はついてたけど」
「ついてたならなんであんな顔したの!」
「いや、わんちゃんモルフォが瑠璃のこと恋愛的に好きになったらどうしようかと思って」
鳳は手で作ったハートマークをパキンと割った。
逆ギレするのはお門違いだと分かっているが、それぐらい怖かったのだ。
ちょっとは許して欲しい。
余裕そうに欠伸を噛み殺す彼女にちょっと意地悪をしたくなった。
「じゃあもし僕が本当に瑠璃のことを好きになったらどうする?」
「………………嫌」
ふいっと顔を背けられてしまって表情は分からなかった。
けれど肘でトンっとこつかれたのがなんだか嬉しい。
多分鳳は燕のことを考えて言ったんだろうけど、そうだったらもっと早く応えただろう。
少しは僕のことを意識してくれてるのかな……なんて。
まだ先かな。
何分か経ってようやく振り向いた鳳は「あっ」という感じで問いかけてきた。
「瑠璃の恋の手伝いってことは、あの2人って両思い!?」
「そういうことだね」
マドンナがしてはいけない顔になってしまった鳳は僕の手をぎゅっと握った。
鼓動が早くなる。
「これは使えるよモルフォ!」
「えっ!?あっうっうん!そうだね!」
顔が赤いのバレてないよな?
手が離れた後、両手で頬を包み込む。
楽しげに鼻歌を歌う彼女はどこかに連絡をしている。
今時の女子高生とは思えないほどシンプルなスマホケースだ。
もっと華やかなものを持っていてもおかしくはない。
不意にあの日のことが脳内で再生される。
僕が転校してきた日。
印象としてはモテるんだろうなぁと漠然的に考えた。
後、僕と似たもの同士だとも。
けれど実際は違った。
彼女はもっと強かった。
僕みたいに弱くは無い。
「モルフォ、いつ予定空いてる?」
「鳳のためならいつでも空けるよ」
ふっと言葉が風に乗って流れた。
それに少しの違和感を覚えたらしい鳳は小首を傾げたが、すぐに「分かった」と言った。
「今日の夜、3人でビデオ通話したいんだけどさ」
「分かった」
ニコッと笑う。
まだまだ明るい夕日が彼女を照らす。
今にも白い羽が舞ってどこかに連れていかれそうになる。
このまま出てはいけない言葉が出そうだ。
たった2文字。
僕はそれを伝える日が来るのだろうか。
もしかしたら全く知らないやつに横から奪われてしまうのではないか。
そんなことになったら……。
僕は素直に喜べるのだろうか。
