今日の学校は特段変わったこともなかった。
まぁあげるならば鳳が可愛いこと。
観察して分かったのが頑張って優雅な振りをしているようで、たまに失敗しかけている所を見る。
そんな美しい蝶は僕に何も知らせず男と会おうとしていたのだ。
いや、別に恋人でもなんでもないからそこは勝手にしたらいい。
いいけど……いいんだけど……!!!
なんかモヤッとする。
ので、僕も参加することにした。
話を聞いている感じ鳳に興味は無いようでひとまず安心した。
「でねモルフォ。いい人とかいないかしら?」
「うーん……急には出てこないなぁ」
取り繕った笑顔はもう慣れた。
鳳はスマホをスクロールしながら唸っている。
可愛い。
男……志染はもじもじと手を擦り合わせている。
「見つけた」
ボソッと彼女が吐いた言葉に2人して見る。
画面に映っているのはチャラそうな男だった。
また男……。
「その人以外はいないの?」
「瑠璃しか思い浮かばないかも」
「もう本人に訊いちゃえばよくない?」
つい焦ってしまった。
鳳は「それは違う」みたいな視線で僕を見てくる。
だってこれ以上、僕以外のやつを近づけたくないんだからしょうがないだろう。
心の中の黒い渦に蓋をして笑った。
「ごめん、ごめん。冗談だよ」
「ありがとう2人とも。俺に協力してくれて」
柔らかい光のような微笑み。
人が磁石みたいに引き寄せられそうだ。
「いいのよ、私、こういうのやったこと無かったし楽しいわ」
「僕も面白そうだし全然いいよ」
全然良くないが。
にしても少し気になったことがある。
それは結構些細なことだけれど。
「志染さん、背筋良くなったね」
「えっ?そうかな……そうだと嬉しいな」
「うん。前より明るく見えるよ」
僕がそう言うと鳳は自信ありげに笑う。
なんだ?
おかしなことでも言っただろうか。
「私のアドバイスが役に立ったみたいね」
「アドバイス?」
僕の知らないとこでそんな会話が。
「えぇ、やっぱり猫を背負っているより抱えている方がいいじゃない」
絶妙に分かりにくい例え話に表情を取り繕うのを忘れてしまった。
どうやら彼女は優雅さを演じるあまり裏目に出ることが多いみたいだ。
特に自分が正しい事をしている時は。
開けた窓から風がふわりと舞い込む。
長い髪が揺れた。
ダメだな今日は。
なんでこうモヤモヤするんだろう。
2人が楽しそうに会話をしているだけで心臓がキュッとなる。
「次は相手の目を見るってのはどうかしら?」
「目かぁ……ハードル高いなぁ」
「よく言うじゃない?人を野菜に見立てるとか」
「野菜かぁ……う〜ん」
顎に手を当て、2人が見つめ合う。
変なこと言ったらただじゃおかないぞ。
そう思いながらもポーカーフェイスは崩さない。
志染は優しく微笑んで
「鳳さんは野菜より蝶に見えるな」
と言った。
それに異論は無い。
何となく興味が湧いて机から身を乗り出した。
「ねぇねぇ、僕はどうかな?」
「トマト」
鳳は顔色1つ変えずに僕を見る。
別にトマトは嫌いじゃないからいい。
けど、その答えに至るまでの過程が知りたい。
乗り出した身を元の位置に戻してから彼女に視線を向ける。
「どうして?」
あからさまに目線を逸らした後、小さく「何となく」と呟いた。
志染の前では言いにくいのか僕の前では言いにくいのか。
素の時みたいに感情が爆発しないように「そう」とだけ声に出す。
絶対理由は聞き出してやる。
……まぁ嫌がってたら辞めるけど。
「2人って付き合ってるの?」
頭をガツンと殴られた気がした。
よっぽどいつもと違う表情だったのか志染は慌てて手を振る。
「いやあの、なんだろう……距離感?って言うのかな。友達にしては近すぎる感じがして……急に変なこと言ってごめんね」
その時の僕は彼の言葉が右から左だった。
チラリと鳳を見ると、何かを思い出すように上を見上げたり横を向いたりしている。
照れている様子は皆無だ。
ちょっと待て。
どうして僕はこんなことで一喜一憂してるんだ?
膨らみに膨らんだ風船が今にも爆発しそうである。
その日はもう何も頭に入らなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕は今、縦波瑠璃とのメッセージ画面を開いている。
スクロール出来るほどの長さはない。
『相談があるんだけどいいかな』
既読が着くのを待つ。
思っていたよりも早く返信が返ってきた。
『なんだい!なんだい!恋愛の話なら大歓迎だよ︎^_^』
めちゃくちゃテンションが高い。
僕は今日合ったこと……志染の相談内容は伏せて話した。
すると短い言葉がピコンっと表示される。
『恋でしょ』
『そんなわけないだろう』
『漫画でもドラマでも小説でも見てみなよ〜♪もるもると同じ事がかいてあるから!』
ハートのスタンプが連続して送られる。
恋?
この僕が?
今までどんな子と付き合ってもなんの感情も湧かなかった僕が?
信じたくない気持ちと、そう断言してしまえば楽になりそうな気持ちがぶつかり合う。
自分から誰かを好きになったことなんて今まで1度もない。
『何したらいいと思う』
『あげあげ鈍感だからなぁ〜』
ベッドの上で足をバタバタさせる。
調べてみるか。
検索ボックスに『恋愛 鈍感な人 落とし方』で検索する。
あの子たちもこんな風に悩んだのかな。
先にAIによる概要が出てきてちょっと読んでみる。
第1段階、心地よい友達になる。
第2段階、特別な存在感を出す。
最後に決定打はストレートな告白と書いてあった。
特別ねぇ……。
『特別ってどうやったらなれる?』
『とにかく存在感を出しまくるとか!まぁもるもるは見た目に華がありすぎるけどね( -𐃷-)』
ニコッと笑顔のスタンプを送る。
っていうか取り繕うの忘れてたな。
まぁいっか、彼女に媚びを売る必要は無いし。
ふわぁっと大きなあくびをしてノートを開く。
本当は勉強をする予定だったけれどそんな場合じゃない。
僕はもう認めるべきことがあるんだ。
それを成功させる為にはやはり事前の準備がいる。
シャーペンで今後の計画を立てた。
他にも調べるとしつこい奴は嫌われるだとか相手にされ無さすぎて辛いと書いてある。
「国語の勉強頑張らなきゃなぁ」
深いため息と同時に考えていることが口に出た。
この前のテストは89点だったし。
父さんからは見下された目で見られるしなぁ。
いい加減、僕に期待するのはやめて欲しい。
兄さんの方が頭も良いし運動神経も良いし家事能力も高い。
棒付きキャンディをタバコみたいに指で挟む。
鳳に写真を送る。
返事はすぐに来た。
同じ棒付きキャンディの写真。
『仲良し』
憂鬱だった気分がボンっと晴れやかになった。
まぁあげるならば鳳が可愛いこと。
観察して分かったのが頑張って優雅な振りをしているようで、たまに失敗しかけている所を見る。
そんな美しい蝶は僕に何も知らせず男と会おうとしていたのだ。
いや、別に恋人でもなんでもないからそこは勝手にしたらいい。
いいけど……いいんだけど……!!!
なんかモヤッとする。
ので、僕も参加することにした。
話を聞いている感じ鳳に興味は無いようでひとまず安心した。
「でねモルフォ。いい人とかいないかしら?」
「うーん……急には出てこないなぁ」
取り繕った笑顔はもう慣れた。
鳳はスマホをスクロールしながら唸っている。
可愛い。
男……志染はもじもじと手を擦り合わせている。
「見つけた」
ボソッと彼女が吐いた言葉に2人して見る。
画面に映っているのはチャラそうな男だった。
また男……。
「その人以外はいないの?」
「瑠璃しか思い浮かばないかも」
「もう本人に訊いちゃえばよくない?」
つい焦ってしまった。
鳳は「それは違う」みたいな視線で僕を見てくる。
だってこれ以上、僕以外のやつを近づけたくないんだからしょうがないだろう。
心の中の黒い渦に蓋をして笑った。
「ごめん、ごめん。冗談だよ」
「ありがとう2人とも。俺に協力してくれて」
柔らかい光のような微笑み。
人が磁石みたいに引き寄せられそうだ。
「いいのよ、私、こういうのやったこと無かったし楽しいわ」
「僕も面白そうだし全然いいよ」
全然良くないが。
にしても少し気になったことがある。
それは結構些細なことだけれど。
「志染さん、背筋良くなったね」
「えっ?そうかな……そうだと嬉しいな」
「うん。前より明るく見えるよ」
僕がそう言うと鳳は自信ありげに笑う。
なんだ?
おかしなことでも言っただろうか。
「私のアドバイスが役に立ったみたいね」
「アドバイス?」
僕の知らないとこでそんな会話が。
「えぇ、やっぱり猫を背負っているより抱えている方がいいじゃない」
絶妙に分かりにくい例え話に表情を取り繕うのを忘れてしまった。
どうやら彼女は優雅さを演じるあまり裏目に出ることが多いみたいだ。
特に自分が正しい事をしている時は。
開けた窓から風がふわりと舞い込む。
長い髪が揺れた。
ダメだな今日は。
なんでこうモヤモヤするんだろう。
2人が楽しそうに会話をしているだけで心臓がキュッとなる。
「次は相手の目を見るってのはどうかしら?」
「目かぁ……ハードル高いなぁ」
「よく言うじゃない?人を野菜に見立てるとか」
「野菜かぁ……う〜ん」
顎に手を当て、2人が見つめ合う。
変なこと言ったらただじゃおかないぞ。
そう思いながらもポーカーフェイスは崩さない。
志染は優しく微笑んで
「鳳さんは野菜より蝶に見えるな」
と言った。
それに異論は無い。
何となく興味が湧いて机から身を乗り出した。
「ねぇねぇ、僕はどうかな?」
「トマト」
鳳は顔色1つ変えずに僕を見る。
別にトマトは嫌いじゃないからいい。
けど、その答えに至るまでの過程が知りたい。
乗り出した身を元の位置に戻してから彼女に視線を向ける。
「どうして?」
あからさまに目線を逸らした後、小さく「何となく」と呟いた。
志染の前では言いにくいのか僕の前では言いにくいのか。
素の時みたいに感情が爆発しないように「そう」とだけ声に出す。
絶対理由は聞き出してやる。
……まぁ嫌がってたら辞めるけど。
「2人って付き合ってるの?」
頭をガツンと殴られた気がした。
よっぽどいつもと違う表情だったのか志染は慌てて手を振る。
「いやあの、なんだろう……距離感?って言うのかな。友達にしては近すぎる感じがして……急に変なこと言ってごめんね」
その時の僕は彼の言葉が右から左だった。
チラリと鳳を見ると、何かを思い出すように上を見上げたり横を向いたりしている。
照れている様子は皆無だ。
ちょっと待て。
どうして僕はこんなことで一喜一憂してるんだ?
膨らみに膨らんだ風船が今にも爆発しそうである。
その日はもう何も頭に入らなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕は今、縦波瑠璃とのメッセージ画面を開いている。
スクロール出来るほどの長さはない。
『相談があるんだけどいいかな』
既読が着くのを待つ。
思っていたよりも早く返信が返ってきた。
『なんだい!なんだい!恋愛の話なら大歓迎だよ︎^_^』
めちゃくちゃテンションが高い。
僕は今日合ったこと……志染の相談内容は伏せて話した。
すると短い言葉がピコンっと表示される。
『恋でしょ』
『そんなわけないだろう』
『漫画でもドラマでも小説でも見てみなよ〜♪もるもると同じ事がかいてあるから!』
ハートのスタンプが連続して送られる。
恋?
この僕が?
今までどんな子と付き合ってもなんの感情も湧かなかった僕が?
信じたくない気持ちと、そう断言してしまえば楽になりそうな気持ちがぶつかり合う。
自分から誰かを好きになったことなんて今まで1度もない。
『何したらいいと思う』
『あげあげ鈍感だからなぁ〜』
ベッドの上で足をバタバタさせる。
調べてみるか。
検索ボックスに『恋愛 鈍感な人 落とし方』で検索する。
あの子たちもこんな風に悩んだのかな。
先にAIによる概要が出てきてちょっと読んでみる。
第1段階、心地よい友達になる。
第2段階、特別な存在感を出す。
最後に決定打はストレートな告白と書いてあった。
特別ねぇ……。
『特別ってどうやったらなれる?』
『とにかく存在感を出しまくるとか!まぁもるもるは見た目に華がありすぎるけどね( -𐃷-)』
ニコッと笑顔のスタンプを送る。
っていうか取り繕うの忘れてたな。
まぁいっか、彼女に媚びを売る必要は無いし。
ふわぁっと大きなあくびをしてノートを開く。
本当は勉強をする予定だったけれどそんな場合じゃない。
僕はもう認めるべきことがあるんだ。
それを成功させる為にはやはり事前の準備がいる。
シャーペンで今後の計画を立てた。
他にも調べるとしつこい奴は嫌われるだとか相手にされ無さすぎて辛いと書いてある。
「国語の勉強頑張らなきゃなぁ」
深いため息と同時に考えていることが口に出た。
この前のテストは89点だったし。
父さんからは見下された目で見られるしなぁ。
いい加減、僕に期待するのはやめて欲しい。
兄さんの方が頭も良いし運動神経も良いし家事能力も高い。
棒付きキャンディをタバコみたいに指で挟む。
鳳に写真を送る。
返事はすぐに来た。
同じ棒付きキャンディの写真。
『仲良し』
憂鬱だった気分がボンっと晴れやかになった。
