雨が降る季節。
湿気でうねった髪を誤魔化すために髪をくくってみた。
今日は静かだ。
何故なら隣にモルフォが居ないから。
父親の仕事に付き合わされているようで、愚痴LINEがポンポン来ていた。
最近はずっと一緒にいたせいで授業中が暇で仕方ない。
そんなボーッとしたまま時間は流れて部活に入っていない生徒は帰り出す。
色とりどりの傘が花みたいに綺麗だ。
私もさっさと仕事を終わらせようと生徒会室に入ろうと1歩踏み出す。
しかし、グッと腕を引かれた。
「うわっ」
「あっごめん!」
振り返るとそこには美術部の志染燕が視線を彷徨わせていた。
私に何か用だろうか。
そう訊きかえそうと口を開くと、彼が声を出した。
「縦波さんと仲良くなりたいんだけどどうしたらいいかな!!」
「…………喋りかければいいんじゃないかしら」
一瞬素が出そうになって焦った。
眼鏡の奥の瞳は真剣だ。
廊下で話すのも良くないと思ったので、ひとまず彼を部屋に入れる。
作業は1人でも出来る量なのでタイミングよく私しかいない。
席についた彼はそわそわと落ち着きがない。
「それで、瑠璃と仲良くなりたいんだったのよね?」
「はい……」
「だったら話しかけたらいいじゃない」
「それが出来たら苦労はしませんよ」
私は人の心を読み取るのが苦手だ。
だから地雷源を容易に踏んでしまう。
「ごめんなさい。そうね……志染さんは英語は得意?」
「クラスで1位を取るぐらいには」
サラッと自慢とも取れるような発言が通りかかる。
「決まりね」
「決まりって、」
「話しかけられないならこれが1番いいじゃない。もし、志染さんが瑠璃に好意を抱いているんだとしたら相談相手を間違えたわね」
ふぅっと一息吐いて続けた。
「私、恋愛に関しては地雷しか踏まないもの」
「地雷……ですか?」
「えぇ。裏では悪女だかなんだか言われてるわ」
これは確か去年の冬。
彼氏持ちの女の子に思い切り突き飛ばされて階段から落ちた。
幸いかすり傷2つで済んだから良かったけど瑠璃の怒りっぷりが半端なかったっけ。
後はビンタされたり、奪ってもない彼氏を返してと言われたりなどなど……。
学校で1番目立てば陰湿なことはされないだろうと思っていたのだが間違いだったみたいだ。
急に黙り込んだ私を心配そうに見つめる。
「よし、瑠璃以外の恋愛のプロを探しましょうか」
「縦波さんっ恋愛のプロだったんですか!?」
驚いた表情の彼に誤解されていそうな気がして、首を振る。
「私が勝手に呼んでるだけよ。あの子は少女漫画と恋愛ドラマが好きなだけ」
二っと不慣れな笑顔を浮べる。
完全な作り笑いじゃないから難しい。
にしても恋愛のプロねぇ……。
誰かいたっけな。
「志染さんっていつから瑠璃のこと好きなの?」
単純に疑問だった。
1年生、2年生と2人は別のクラスで違う部活。
一見接点が無いように思える。
彼は茹でダコのように真っ赤になって答えてくれた。
「その……俺の絵を褒めてくれたことがきっかけなんです。凄い単純なんですけど嬉しくって」
真っ黒な髪が静かに目に重なる。
その表情にモルフォを思い出した。
情熱的で楽しげに揺れる瞳。
あの美少年も誰かに恋をしているのか。
ちょっと気になる。
雨が窓に叩き付ける音を聞きながら、天井を見上げた。
「素敵だね」
フッと息を吐くように言葉が漏れた。
黒縁メガネの彼は「ありがとうございます」とぎこちなく笑う。
私には縁のない感情に羨ましさを覚える。
「ねぇ、下の名前で呼んでもいい?私の事も鳳でいいからさ」
志染さんは目を見開き、こくりと頷いた。
「鳳さんってもっと怖い人かと思ってた」
「怖いって何よ」
「何だろう……キラキラしてて自信たっぷりだからかな?」
眉を八の字にして肩を揺らす。
随分と緊張がほぐれたみたいだ。
「にしても、どうして私に相談してきたの?そんなに学校で瑠璃と喋った覚えはないけれど」
瑠璃とは学校ではあまり喋らない。
別に仲が悪いとかでは無く、同じクラスにもならず選択科目も別が多いのだ。
もちろんLINEや学校外では仲良しである。
雨が少し弱まった。
「態度かな。縦波さん、鳳さんと一緒の時は普段より笑顔が多いから」
よく見ている。
率直にそう思った。
「なるほどねぇ」とぼそりと呟く。
しばしの沈黙の後、私の脳裏にある言葉が浮かんできた。
「瑠璃の好きなタイプはリードしてくれる人だって聞いたことがあるわ」
「っ!?」
見た事のない驚き方をしている。
燕くんは全く真逆のタイプだ。
俯いてしまった同級生の顔を顎を支えてグッと上げる。
「ねぇ、燕くん。大変身してみない?」
「大変身?見た目を変えるとかそういう?」
「そっちもいいけど、自信をつけてみようってこと」
確かに言っちゃあ悪いが彼の印象は暗い。
が、大体瑠璃から「めっちゃ好き〜」と見せられる姿は眼鏡に前髪が長いキャラだ。
ただ3次元でもそれが好きとは限らないから探りを入れておくか……。
丁度生徒会での仕事も終わり、2人で帰路についた。
「胡蝶さんとはどう?」
「どうって何が?」
「その……俺みたいに……」
言いにくそうに言葉を詰まらせる。
ちょっと考えてすぐに答えが分かった。
「恋かどうかって言われたら違うんじゃないかしら」
傘から垂れる雫がぽたぽたと靴を濡らした。
靴下濡れてないといいけど。
その後、明日の放課後に生徒会室で作戦会議をする話になって解散した。
私も恋愛系の雑誌とか漫画とか読もうかな。
考え事をしながら、くあっと大きなあくびをしてドアノブをひねる。
「ただいま」
「あら鳳お帰り。プリンあるけど食べる?」
「んー」
適当に返事をして冷蔵庫を開いた。
プリンカップに触れようとした時、頭に衝撃が走る。
「ちゃんと手洗ってから食べなさい」
「ちえっ、バレたか」
ベッと舌を出して手を洗う。
最近皆ネイルしてんだよなぁ。
私も薄いやつ買ってみるか。
ふわふわのタオルを触っている時にモルフォを思い出した。
何でだ……?
輝くような卵色を掬って口に含む。
甘くとろけるような味わいに小さな幸せを感じる。
あぁ。
きっとあれだ。
彼の持っているハンカチと色が似てたんだ。
優しいミントグリーン。
それに似てるんだ。
何となく写真を撮ってモルフォに送ってみた。
『モルフォのハンカチの色に似てない?』
すぐに返信が来て、
『確かに( ^ᵕ^)』
と可愛い顔文字と共に送られてくる。
緩む頬に残りのプリンを食べ進めて電話をかけた。
湿気でうねった髪を誤魔化すために髪をくくってみた。
今日は静かだ。
何故なら隣にモルフォが居ないから。
父親の仕事に付き合わされているようで、愚痴LINEがポンポン来ていた。
最近はずっと一緒にいたせいで授業中が暇で仕方ない。
そんなボーッとしたまま時間は流れて部活に入っていない生徒は帰り出す。
色とりどりの傘が花みたいに綺麗だ。
私もさっさと仕事を終わらせようと生徒会室に入ろうと1歩踏み出す。
しかし、グッと腕を引かれた。
「うわっ」
「あっごめん!」
振り返るとそこには美術部の志染燕が視線を彷徨わせていた。
私に何か用だろうか。
そう訊きかえそうと口を開くと、彼が声を出した。
「縦波さんと仲良くなりたいんだけどどうしたらいいかな!!」
「…………喋りかければいいんじゃないかしら」
一瞬素が出そうになって焦った。
眼鏡の奥の瞳は真剣だ。
廊下で話すのも良くないと思ったので、ひとまず彼を部屋に入れる。
作業は1人でも出来る量なのでタイミングよく私しかいない。
席についた彼はそわそわと落ち着きがない。
「それで、瑠璃と仲良くなりたいんだったのよね?」
「はい……」
「だったら話しかけたらいいじゃない」
「それが出来たら苦労はしませんよ」
私は人の心を読み取るのが苦手だ。
だから地雷源を容易に踏んでしまう。
「ごめんなさい。そうね……志染さんは英語は得意?」
「クラスで1位を取るぐらいには」
サラッと自慢とも取れるような発言が通りかかる。
「決まりね」
「決まりって、」
「話しかけられないならこれが1番いいじゃない。もし、志染さんが瑠璃に好意を抱いているんだとしたら相談相手を間違えたわね」
ふぅっと一息吐いて続けた。
「私、恋愛に関しては地雷しか踏まないもの」
「地雷……ですか?」
「えぇ。裏では悪女だかなんだか言われてるわ」
これは確か去年の冬。
彼氏持ちの女の子に思い切り突き飛ばされて階段から落ちた。
幸いかすり傷2つで済んだから良かったけど瑠璃の怒りっぷりが半端なかったっけ。
後はビンタされたり、奪ってもない彼氏を返してと言われたりなどなど……。
学校で1番目立てば陰湿なことはされないだろうと思っていたのだが間違いだったみたいだ。
急に黙り込んだ私を心配そうに見つめる。
「よし、瑠璃以外の恋愛のプロを探しましょうか」
「縦波さんっ恋愛のプロだったんですか!?」
驚いた表情の彼に誤解されていそうな気がして、首を振る。
「私が勝手に呼んでるだけよ。あの子は少女漫画と恋愛ドラマが好きなだけ」
二っと不慣れな笑顔を浮べる。
完全な作り笑いじゃないから難しい。
にしても恋愛のプロねぇ……。
誰かいたっけな。
「志染さんっていつから瑠璃のこと好きなの?」
単純に疑問だった。
1年生、2年生と2人は別のクラスで違う部活。
一見接点が無いように思える。
彼は茹でダコのように真っ赤になって答えてくれた。
「その……俺の絵を褒めてくれたことがきっかけなんです。凄い単純なんですけど嬉しくって」
真っ黒な髪が静かに目に重なる。
その表情にモルフォを思い出した。
情熱的で楽しげに揺れる瞳。
あの美少年も誰かに恋をしているのか。
ちょっと気になる。
雨が窓に叩き付ける音を聞きながら、天井を見上げた。
「素敵だね」
フッと息を吐くように言葉が漏れた。
黒縁メガネの彼は「ありがとうございます」とぎこちなく笑う。
私には縁のない感情に羨ましさを覚える。
「ねぇ、下の名前で呼んでもいい?私の事も鳳でいいからさ」
志染さんは目を見開き、こくりと頷いた。
「鳳さんってもっと怖い人かと思ってた」
「怖いって何よ」
「何だろう……キラキラしてて自信たっぷりだからかな?」
眉を八の字にして肩を揺らす。
随分と緊張がほぐれたみたいだ。
「にしても、どうして私に相談してきたの?そんなに学校で瑠璃と喋った覚えはないけれど」
瑠璃とは学校ではあまり喋らない。
別に仲が悪いとかでは無く、同じクラスにもならず選択科目も別が多いのだ。
もちろんLINEや学校外では仲良しである。
雨が少し弱まった。
「態度かな。縦波さん、鳳さんと一緒の時は普段より笑顔が多いから」
よく見ている。
率直にそう思った。
「なるほどねぇ」とぼそりと呟く。
しばしの沈黙の後、私の脳裏にある言葉が浮かんできた。
「瑠璃の好きなタイプはリードしてくれる人だって聞いたことがあるわ」
「っ!?」
見た事のない驚き方をしている。
燕くんは全く真逆のタイプだ。
俯いてしまった同級生の顔を顎を支えてグッと上げる。
「ねぇ、燕くん。大変身してみない?」
「大変身?見た目を変えるとかそういう?」
「そっちもいいけど、自信をつけてみようってこと」
確かに言っちゃあ悪いが彼の印象は暗い。
が、大体瑠璃から「めっちゃ好き〜」と見せられる姿は眼鏡に前髪が長いキャラだ。
ただ3次元でもそれが好きとは限らないから探りを入れておくか……。
丁度生徒会での仕事も終わり、2人で帰路についた。
「胡蝶さんとはどう?」
「どうって何が?」
「その……俺みたいに……」
言いにくそうに言葉を詰まらせる。
ちょっと考えてすぐに答えが分かった。
「恋かどうかって言われたら違うんじゃないかしら」
傘から垂れる雫がぽたぽたと靴を濡らした。
靴下濡れてないといいけど。
その後、明日の放課後に生徒会室で作戦会議をする話になって解散した。
私も恋愛系の雑誌とか漫画とか読もうかな。
考え事をしながら、くあっと大きなあくびをしてドアノブをひねる。
「ただいま」
「あら鳳お帰り。プリンあるけど食べる?」
「んー」
適当に返事をして冷蔵庫を開いた。
プリンカップに触れようとした時、頭に衝撃が走る。
「ちゃんと手洗ってから食べなさい」
「ちえっ、バレたか」
ベッと舌を出して手を洗う。
最近皆ネイルしてんだよなぁ。
私も薄いやつ買ってみるか。
ふわふわのタオルを触っている時にモルフォを思い出した。
何でだ……?
輝くような卵色を掬って口に含む。
甘くとろけるような味わいに小さな幸せを感じる。
あぁ。
きっとあれだ。
彼の持っているハンカチと色が似てたんだ。
優しいミントグリーン。
それに似てるんだ。
何となく写真を撮ってモルフォに送ってみた。
『モルフォのハンカチの色に似てない?』
すぐに返信が来て、
『確かに( ^ᵕ^)』
と可愛い顔文字と共に送られてくる。
緩む頬に残りのプリンを食べ進めて電話をかけた。
