学校一のマドンナと転校生の社長子息の不器用な恋物語。

最近僕はおかしくなってしまった。

他人なんかどうでもよかった。

どれだけ好きだの愛してるだの言われても響かない。

何度か付き合ったこともあったけど、すぐに飽きられる。

最後に言われる言葉は決まっていつも「モルフォ君って完璧すぎてつまらない」。

なんだよ。

完璧すぎてつまらないって。

こっちは頑張って完璧を演じてるのに。

演じなかったら演じなかったで、期待はずれって言われるのに。

どうしたらいいんだよ。

どうしたら……。


「モルフォって漫画とか読むの?」


放課後の図書室。

見た目は近寄り難い女の子。

けれど声のトーンは低かった。


「読まないよ。馬鹿になるって禁止されてる」


「馬鹿になるって……古いなぁ」


「確かにね。この細胞を擬人化したやつ凄い分かりやすい」


最初は読み方すら分からなかった漫画を教えてくれた。

小説とは違う方法で最初は戸惑ったけどすぐに慣れた。

面白い。

彼女はバレーボールの漫画を読んでいる。

それも面白そうだ。

鳳に演技をしていない姿を見られた時は焦った。

もしバラされたらどうしようって。

僕にはない自信たっぷりな姿にも腹が立った。

同じような人なのにどうしてこんなに違うんだろうか。


「モルフォってさ、いつも難しい本読んでるよね。ラノベとか読まないの?」


「ラノベ?」


「ライトノベル。絵とかいっぱい描いてる本」


「ないかも……」


そう答えたら鳳はどこかに行ってしまった。

遠くで「なんのジャンルが好きー?」と訊かれたので「分かんないー」と答える。

基本的に論文か哲学系の本しか読まないから分からない。

つい素で答えてしまったが、大丈夫だろうか。

他の人がいないかとキョロキョロ見渡すと目が合った。

ゆるゆるのポニーテールを揺らしてこっちに近づいてくる。

やばいどうしよう。

どうしようどうしようどうしよう。

ぎゅっと手を掴まれる。


「モルモルじゃ〜ん!まさかここで見れると思わなかった〜!相変わらず美人さん」


「瑠璃……いきなりパーソナルスペースぶっ壊しに行くんじゃないわよ。ごめんねモルフォ、この子は私の幼なじみ。口は固すぎるから心配ないわ」


「そっそっか」


言葉がつっかえる。

鳳は子犬のような瑠璃さんの髪を直しながらぶつくさ文句を言っていた。

そっか。

鳳のほんとの姿を知ってるのは僕だけじゃない。

分かってはいたけどちょっと悲しいと思った。

焦げ茶色の瞳が僕を捕える。


「あたしは縦波瑠璃。ちなみに鳳は今まで恋人いたことないからお手柔らかにね」


パチンとウィンクをする。

その声は小さくて注意深く訊かないと分からないほどだった。


「ねぇねぇ!LINEやってる?交換しよしよ!」


「あっうっうん」


流されるまま交換してしまってスマホ見る。

甘ったるそうなドリンクにキラキラしたネイルが光っていた。

ちょっと……しんどい。


「瑠璃、人のペースを考えなさい」


「ごめん、ごめん。ちょっと懐かしくなっちゃってさ」


あはは〜と無邪気な笑みは太陽みたいだった。

瑠璃は手を振って図書室を後にした。

鳳は困ったような嬉しそうな表情で扉に視線を送る。

ふっとこちらを向き「これ」っと渡されたのはカッコイイ男性キャラが描かれた本だった。


「オススメの本。ファンタジーっていう能力を使ったバトルものなんだけど」


パラパラめくると読みやすそうだと思ったのと、絵がある珍しさに好奇心がぐんぐんと湧き上がる。


「ありがとう。読んでみるよ」


この時、自然な笑顔がこぼれた。

ーーーーーーー天蓋付きのベッドに寝転がる。

スマホがピコンと鳴った。


『やっほ〜︎^_^』


この軽い感じは……。

送り主はローマ字でruriと書いてある。


『こんにちは』


素っ気なさすぎただろうか。

あまり深く関わるつもりはないのだが。


『モルモルってアゲアゲのこと好きなの?』


ド直球な質問にグッと出そうなものをこらえる。

……どうだろう。

僕は彼女のことが好きなのか?

確かに一緒にいて居心地はいいけど、キスだったりそれ以上先…………。

何を思ったか僕は鳳に電話をかけていた。


「もしもし」


「急に何?」


「ビデオ通話しよう」


「マジでなんで?」


強引に持ち込んでみたが、鳳もカメラをオンにしてくれた。

ダボッとしたTシャツにキャラクター物のヘアピン。


「可愛い」


「……それだけ?」


「うん。でももうちょっと話したい」


心臓の当たりがポカポカする。

寝転んだせいで綺麗に結われたお団子が崩れてきた。


「鳳ってさぁ……好きな人いるの?」


「いないけど。恋愛相談なら瑠璃にして、私はチンプンカンプンだから」


ゲームをしながら喋っているようで、こっちを全然向かない。

モヤモヤする。


「ゲームより僕を見てよ」


「早く寝なよ。私はまだノルマが終わってないんだから」


カチャカチャと操作方法が全く分からない物を器用に使う。

リラックスしきってる鳳。

僕もその場に入れればいいのに。

ってきり予習復習でもしてるのかと思った。

それかスキンケアしたり料理したり。

あぐらをかいて大きなあくびをする。

これがマドンナの本性。

好感度みたいなのは全く下がる気配はない。

むしろ上がっている気がする。

そんな中、ノック音が響き渡った。


「ちょっとミュートにするね」


「んー」


適当な返事にフッと笑ってからドアノブを動かす。

そこに居たのは顔を合わせたくない父親だった。


「……お父様、どうかなさいましたか?」


緊張で掌がじんわりと汗をかく。


「勉強は進んでいるかと思ってな。もうすぐ期末テストだろう?」


「はい。お父様の期待に添えるように頑張ります」


精一杯の作り笑いを浮かべる。

早くどっか行って欲しいな。

そんな心の内が悟られないように神経を研ぎ澄ませた。

5分……体感30分ぐらいの要らぬ励ましを受け、スマホを触る。


「気分良くない」


ミュートなのをいいことにボソリと呟いた。

鳳はゲームを止めており、ベッドに寝転がっている。

最新の雑誌が乱雑に散らばっていた。


「散らばりすぎじゃない?」


指摘するとササッと片付ける。

片付けるというより見えない場所に置いたと言った方が正しい。

しばらくふくれっ面をした鳳は小さなあくびを噛み殺した。

ほとんど半目状態の中、楽しげにニッとして「おやすみ」と呟く。


「……おやすみ」


僕もそれに小さく呟いた。

少し心が軽くなる。

いいや、今日は勉強止めよう。

明日やろう。

自分だけに宣言した瞬間、ゆっくりと目を閉じた。