学校一のマドンナと転校生の社長子息の不器用な恋物語。

中々予定が合う日がなくて夏休み初日に僕らは遊園地に来ていた。

人は多すぎず、少なすぎず丁度いい。

こういった場所はどこに行っても人が多いと思っていたから意外だ。

車から降りて待ち合わせ場所に急ぐ。

そこには仲睦まじそうに喋る志染と鳳の姿があった。

モヤッとした気持ちが心の隅をドス黒く染める。


「おはよう、志染さんに鳳、思ったより早くてびっくりしちゃった」


ザ・よそ行きスマイルを作り2人に話しかける。

鳳はマドンナスタイルというからスカートでも履いてくると予想したが違った。

動きやすそうなパンツスタイルで正直好みすぎて倒れるかと思った。

志染はもっとシンプルかと考えていたが意外とセンスが良いみたいだ。

長ったらしい前髪もセンター分けにしている。

やっぱり鳳は男らしい方が好みだったりするのかな。


「今日の服似合ってるね」


眼鏡の奥でキラキラと瞳を輝かせている志染に「ありがとう」と優しく言う。

そこから瑠璃が来るまでの5分弱、計画について話し合った。

瑠璃が言われたら喜ぶ言葉とか、どのタイミングで別れるかとか。

息を切らしながら走ってくるポニーテールの彼女は着いて早々僕らに頭を下げてきた。


「遅れてごめんっ!」


「いや、私たちが楽しみすぎて早く着きすぎただけだから大丈夫だよ」


「ほっ本当?ならよかったぁ」


全身分の息を出したんじゃないかと錯覚してしまうほど長い長い二酸化炭素は瑠璃の太陽のような笑みと共に消え去った。


「最初は何乗ろっか〜もるもる何かある?」


「えっ僕?」


全くこちらに話を振られると思っていなかったのでびっくりした。

それに気づいた鳳が「遊園地初めてなんでしょ」と補足を入れてくれる。

僕は辺りを見渡して、じゃあと指でカップ型の乗り物を指した。


「コーヒーカップかぁ、いいね!」


志染が両手を握りしめて言う。

瑠璃は半袖を更に(まく)り不気味な笑いをする。


「モルフォ、私と一緒に乗ろうか。あの2人と乗ると地獄を見る」


ゾってした顔で言い放った鳳にまさかと思った。

それは冗談では無かったと気づいたのはコーヒーカップに乗って、中心の皿を回すと回転速度が上がることを教えてもらった後だった。


「見なよモルフォ。あの異様に回ってるコーヒーカップを」


「わぁ」


引きつった声が出る。

見てるだけでも酔いそうなそれに、好奇心だけで一緒に乗ろうなんて言わなくて良かったと安堵が口から漏れた。

瑠璃達以外のコーヒーカップもそこそこ早くてここまでゆっくりなのは僕らしかいない。


「今から酔ったら大変だからね」


「ふふっ確かに」


降りた後も2人はケロッとしていて三半規管どうなってんだと疑った。

僕にも分けて欲しいな……。


「じゃあ次は何乗ろうか?縦波さん、どう?」


志染の耳は真っ赤に染まっている。

彼の緊張がこっちまで伝わってきそうだ。


「えっとねじゃあジェットコースター乗ろうよ!」



「いいね!鳳さん達はどうかな」


前方にある大きな乗り物に自然と目が惹かれた。

さっきのコーヒーカップとは比にならないぐらい酔いそうである。

喉がごくりと音を立てて唾液を呑み込む。

心臓の前で拳を作る。


「乗ってみたい」


「よぉーし!じゃあ早速並ぼー!」


張り切っている2人の後を追いかけようと足を踏み出す。

その後ろを小走りでついてくる鳳を放っておけなくて手を差し出した。


「置いてかれちゃうよ」


「はいはい」


パシッと手を取り合う音が聞こえたらスタートの合図だ。

バラバラな幅は徐々に揃っていき、彼らに追いつく頃には息ぴったり。

静かに笑いあって会話に混じる。


「夏休みの宿題っていつ終わらせてる〜?あたしは最終日!」


「自信満々に言わないでよ……あっ燕くんとモルフォも恒例の勉強会参加する?」


「勉強会?」


志染が不思議そうに首を傾げる。


「放っておいたら最終的に泣きつかれるのは目に見えてるからね。それ防止目的」


呆れと期待がマーブル模様に映し出される。

勉強会か……。

どんな感じなんだろう。

いつも1人だから分からない。

大体皆分からない問題だけを聞いて、そそくさ帰ってしまうから。

鞄の中で音が鳴る。

チラッと確認すると父さんからだった。

出る気になれなくて見て見ぬふりを決める。

幸い僕以外気づいていないようだ。


「で、もるもるは来てくれる?」


わざとらしく考える仕草を取ってニコリと微笑んだ。


「もちろん」


「やった!」


大きく手を挙げて体全体で喜びを表現する。

子供っぽい仕草に昔なら恥ずかしいと感じたかもな。

でも今はそんな感情は全くない。


「じゃあモルフォに英語教えて貰っちゃおうかな」


「俺は数学がいいな」


「じゃああたしは英語と数学と歴史とあとは」
「モルフォの負担が大きくなっちゃうでしょ」


あははっと声が出た。

楽しい……楽しい!

4名様ですねと言われ、僕は鳳と隣同士で座った。

安全バーの確認のためグイッと押される感覚が新鮮だ。

ずっと気になっていたがジェットコースターからは悲鳴が聞こえている。

しかも凄く速い。

えっ大丈夫か?

吹っ飛ばされないかこれ。

不安がピークに達そうとした時に右手をぎゅっと掴まれた。


「意識は飛ぶけど死にはしないさ」


「えっ……そんなアトラクションなの!?」


「じゃあお先に」


そう言った彼女は糸が切れたように眠ってしまった。


「えっえっ!?」


「よくある事だから気にしないでいいよ、もるもる」


「よくあるの!?」


ツッコんだ次の瞬間、風が全身に吹き付けた。

僕は声をあげようと思ったが喉の奥に全部引っ込んでしまう。

隣に居る鳳の手を握りしめ目を瞑る。


「たーのしいー!!!」


「あっははは!!!」


この時ばかりは燕と瑠璃が悪魔に見えた。

なんなんだこいつら……。

グネグネした道が続いたと思ったら一回転し出すし、急に止まったり進んだりする。

なんだか酔ってきたな。

ジェットコースターから降りた後ベンチで休んでいた。

僕が鳳を膝枕する形で。

普段ならドキドキて心臓が張り裂けそうなのに今はそんな気すら起きない。

あの2人は心配してたけど、元々どこかで別れるつもりだったんだ。

計画は今のところ順調である。


「世界が回ってる……」


「分かる……酔いが冷めたらどこ行く?」


薄っすらと黄緑色の瞳が見える。


「あれ乗ってみたい」


「どれ?」


「えっと……ゴンドラが回ってる」


「観覧車か」



心臓を射抜くような笑みで「乗ろっか」と膝から重みが消える。

手を差し伸べられて迷わず華奢なそれを握った。