君と始める最後の恋

 目の前の女の人は両手で口元を抑えて何やら感動した顔をしている。

 こんな風に紹介される事が無いから顔が熱い。


「あ、ごめんなさい。私、上原(うえはら) 千鶴(ちづる)です。大学時代の同期で」


 ふわっと柔らかく笑って私の方に手を差し出してくる上原さんに私も恐る恐る握手を返す。


「桜庭です。」


 類くんと同じ苗字を会社では使っていないし、一ノ瀬が2人だとややこしくなるかもと思って旧姓で名乗る。こんなことも別に珍しくはない。

 手を離すと上原さんは少し笑って「お仕事中にすみません、私が一ノ瀬に奥さんなんて嘘だと騒いだもんですから。」とこうなった経緯を軽く説明してくれた。

 私が小さく「いえ」と答えると、上原さんは類くんの方を見る。


「それじゃ一ノ瀬今後ともよろしく。」


 そう言って私と同じ様に類くんに握手を求めている上原さんを見てもやっとしてしまった。

 仕事相手に嫉妬するなんて私はなんて心の狭い女なのか。

 類くんはその手に返して、すぐに離す。


「見送り、いらないの。また迎えに来てとか言って迷子になんじゃない?」

「大丈夫よ。迷子になったらその辺の人捕まえて聞くから。」

「馬鹿、迷惑だよ。見送る。」

「子供じゃないのに。それじゃ、桜庭さん。また。」


 私は軽く会釈して、2人の背を見送った。

 横並びで歩く2人がお似合いで何とも言えない気持ちになる。

 嫉妬の後には、仕事相手として類くんは対応しているのにそんな姿を見て嫉妬してしまう心の狭さに自己嫌悪を抱いた。

 見送ってから席に戻って仕事の続きをする。

 最近類くんとの時間が少ないからか、心の余裕が無くて仕方ない。

 紹介してもらって嬉しかったはずなのに…。