ゆいは深く息を吸い込んだ。
今までずっと逃げてきた自分が、ここに立っている。
それだけで胸が苦しくて、全身に冷たい汗が流れるような感覚があった。
だが、それでももう振り返るわけにはいかない。

これが、最後の選択だ。

竜也と飛鳥の前に立つと、二人は互いに視線を交わしながらも、ゆいを見守っている。
その目には、期待とともに何かを恐れるような、決して隠せない気持ちが滲んでいた。

「私……」

その言葉が喉の奥でひっかかり、なかなか口に出せなかった。
けれど、ゆいはすぐに自分の胸に手を当てて、静かに続けた。

「私は、竜也が好き」
その言葉が、空気を震わせた。

竜也は一瞬驚いた顔をした後、ゆいの言葉を深く噛み締めるように頷いた。
しかし、飛鳥の表情は変わらない。
ゆいの言葉が彼の心にどれだけの衝撃を与えたのか、その瞳の奥に見えた痛みが語っていた。

「でも、飛鳥も大切」
ゆいは続けた。
「あなたは、私の心の中で、ずっと大切な存在です。」

その言葉に、飛鳥の顔に何かが浮かび上がった。
一瞬、彼の目に優しさが見えたが、それはすぐに消え失せた。
「……それだけ?」
飛鳥の声が震えていた。

「私は、どちらも失いたくない。」
その言葉が、ゆいの胸を締め付けた。
「でも、私は選んだ。竜也を選んだ。でも、それでも……」

「わかっている」
飛鳥が静かに言った。
その声は、冷徹に響くようで、ゆいの心に痛みを与えた。
「お前は、俺を選んだわけじゃない。ただ、俺を諦めたんだろ?」

その一言が、飛鳥の本音だったのだろう。
ゆいはそれを聞いて、胸が締めつけられるような感覚に襲われた。

選べなかったわけではない。
選んだ結果が、これだった。

その現実が、今ようやく自分の中に浸透していく。