竜也は、またしてもゆいの笑顔を見逃した。
今日も、いつものように二人で帰るつもりだった。

だが、その日の放課後、いつも通りに校門で待っていると、ゆいが現れる前に別の影が彼の視界に入った。
飛鳥だ。

「竜也、ちょっと待て」

飛鳥は竜也に向かって歩み寄ってきた。その表情は、いつもの軽い調子ではなく、どこか真剣な色を帯びている。

「何だ?」

竜也が短く返すと、飛鳥は一瞬黙り込んだ。
その沈黙が、竜也にとってはすべてを物語っていた。

「俺は、もう限界だ」

その一言に、竜也の心は一瞬、固まった。

「限界? 何を言ってるんだ、お前」

竜也は眉をひそめる。
飛鳥は何を言いたいのか、全く理解できなかった。

「ゆいが、俺のものじゃないことはわかってる。だが、俺はもう黙って見ていられないんだ。竜也、俺は――」

その時、ゆいの声が耳に届いた。
竜也と飛鳥の間に、ちょうどそのタイミングで現れる。

「お二人とも、どうしたの?」

彼女の笑顔を見た瞬間、竜也は胸がざわめくのを感じた。
何も言えない。
このまま、何もかもが壊れてしまうような気がした。