目覚まし時計の電子音で、咲は目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む光は、あの日の校庭の眩しさとは違い、どこか灰色を帯びている。

「……遅刻、する」

慌ただしくスーツに袖を通し、最低限の化粧を鏡の前で済ませる。
OLとして働き始めてもう5年。仕事は忙しく、毎日は同じことの繰り返し。
タイムトラベルの夢を追いかけていた高校時代が、まるで別人のことのように思える。

電車に揺られながら、咲はスマホを覗き込む。
同窓会の案内メッセージが未読のまま残っていた。

「……行けるわけないよね」

胸がざわつく。あの日の蓮と交わした言葉が、今も喉に刺さったまま抜けない。

週末。
ふとしたきっかけで、咲は地元に足を運んだ。
同窓会には顔を出せなかったが、気になっていたものがあったからだ。
――校庭の片隅に埋めたタイムカプセル。

スコップを握る手に力を込める。土を掘り返すと、錆びついた小さな箱が現れた。
蓋を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは――10年前の自分が書いた、震える文字の手紙。

『十年後、蓮と一緒に笑っていますように』

思わず、咲の目が潤む。
そのとき、頭上で雷鳴が轟いた。