ガチャリという音をたて、ドアを開けたのは玲司だった。
「ただいま、日美子。あっ!包丁なんか持って、火と包丁はダメだってメモに書いたのに!すぐに朝食作るから⋯⋯」

 玲司は、何もなかったように、いつもと変わらない口調で言うが、日美子は、たった一日で何もかも変わってしまった。

 日美子の手から包丁が滑り落ちる。
「ちょ⋯⋯日美子、なんて危ないことを!」
 そう言われてもお構いなしで、子供のように泣きじゃくりながら、玲司に抱きついた。
「ど、どうした!?何があったの?」
「もう嫌⋯⋯たった一日でも、玲司が居ないのなんて、私には耐えられない⋯⋯!」
 玲司は、そっと日美子の頭を撫でながら、
「昨日の電話、元気のない声だったね。心配になって、夜行バスで帰ってきたんだ。始発と3時間ぐらいしか変わらないけど、ホテルに泊まっても気になって眠れなかっただろうし。ごめんね。もう二度と一人にしないから」