「私は大丈夫だから⋯⋯無理せずゆっくり帰ってきて」
 強がりを言って電話を切ったあと、淋しくて淋しくて、子供のように声を上げて泣いた。

 普段、もうとっくに寝ているはずの時間になっても、淋しすぎて眠れず、時計の音だけを聞いている。
 無理しないでと言ったくせに、本当はすぐにでも会いたい。
(いつも一緒なのがあまりにも当たり前だったから、たった一日離れることが、こんなに淋しいなんて思わなかった⋯⋯)
 泣き疲れた日美子は、やっと眠りについた。

 いつものように、早朝にニワトリの鳴き声で叩き起こされても、やはり玲司は居ない。
「玲司、早く会いたいよ⋯⋯!」
 細い肩を震わせ、また泣きだしそうになる日美子。

 その時、まだ玲司の帰宅予定時刻の3時間前なのに、屋敷の鍵を開けようとする音がし、日美子は恐怖で体を強張らせた。
 キッチンの包丁を両手に持ち、身構えてみたが、刺し違えないだろうか。