彼女もまた、
「こんにちは」
 と返し、互いに何度も「こんにちは」ばかりで、もはや万博である。
 それが、玲司と日美子の出会いだった。
 初日はその調子だったが、やがて玲司は屋敷の庭に忍び込んでは、一緒に遊ぶようになった。
「幼稚園、行ってないの?」
 玲司が素朴な疑問を投げかけると、
「興味がないから行かない」
 3歳児にしては随分ドライな答えが返ってきた。

 ごく普通の子供らしい子供である玲司は、日美子のことを自宅で嬉々として両親に話し、一方、どこか不思議な日美子は、テレビのフランス語講座をぼんやりと見ながら、ブツブツと発音していた。
「Je m’appelle⋯⋯イミコ」
 食事中、唐突にポツリと呟いた日美子に、両親は戸惑った様子。
「日美子、いま何て言ったの?」
「私の名前はヒミコだと言いたかったのに、フランス語だとアッシュは発音しないから、イミコになる⋯⋯」