「私、家政婦さんを雇ったほうがいいかもね」
「え!?何か、ぬかりがあった⋯⋯?」
「そうじゃないのよ。玲司だって仕事があるのに、あれこれやらせちゃ申し訳ないもの」
 ハタチになった日美子は、父からの送金が打ち切られたが、18から始めた翻訳も好調で、散財も一切しない為、お金には全く困っていない。
「いいんだよ。僕がしたくて勝手にやってるんだから」
 日美子は無言のまま、猫のような目でじっと玲司のことをしばらく見つめたあと、すっと立ち上がる。
「どうしたの?」
「じゃあ、私にも教えてよ。家事を」
「そう⋯⋯?じゃあ、一緒に夕飯の用意をしようか」

 仲睦まじくキッチンに立ち、数分も経たないうちに、日美子は鍋に手をぶつけて火傷してしまった。
 氷水で手を冷やす日美子の隣で、玲司は手際よく調理を進める。
「やっぱり、慣れないことはしないほうがいいよ」
「私って、かなりの能無しよね⋯⋯」