今までならば、畏れ多くて決してできなかったような、日美子のことを髪がくしゃくしゃになるほど撫で回すことも、何故か出来るようになった。
「今までの私、可愛くなかった?」
 まるで犬か猫のように撫で回されながら、日美子はいつもの淡々とした口調で尋ねる。
「まさか!ただ、なんかこう、親しみやすくなったというか⋯⋯」

 その時、ふと玲司は気付いた。
 もしかしたら、単に自分がもっと日美子に近づきたいがために、幼くて隙のある雰囲気に変えたかったのではないかと。
「隙って必要かしら?」
 先刻、日美子の言った言葉が甦る。
(影のように、空気のように、ただそばに居られたらそれだけでよかったはずなのに、僕は自分で思う以上に利己的なのかな⋯⋯)

 無言のまま、ズーンと落ち込む玲司。
「玲司、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
「お腹空いた」
 相変わらずマイペースな言葉に吹き出してしまう。