「いいよ⋯⋯」
「ん?」
「私より玲司のほうがセンスはいいはずだから。任せるわ」
 ズッキューン!
 心臓に矢が刺さったまま、玲司は、まだ理容師の卵ながら、職人のようにミリ単位の仕事を続けた。

 かなり細かい微調整の末、やっと納得のいく仕上がりになった。
「これでどうかな?」
 そう言って、手鏡を渡す。
 いつもより少し幼い雰囲気になった日美子は、あらゆる角度から自分を映して細かくチェックしたあと、
「やっぱり、玲司に任せてよかった。ありがとう」
 お馴染みの“罪深い天使の笑み”を浮かべ、あさま山荘の鉄球のように、玲司の心臓を激しく毀しにかかってきた。
(日美子といると心臓がもたない!でも⋯⋯)
 いつもは、年齢より大人びており、それこそ全く隙のない雰囲気だった日美子。
 しかし、今は少し幼く見える為、あまり玲司にプレッシャーを与えない印象になった。
「日美子⋯⋯とても可愛くなったよ!」