これがもし、性別が逆だったらどうなのか。
 バブル時代に、アッシー、メッシーなどと呼ばれた男が、女に全く大事にされていなかったことを思えば、やはり、そういうことだろう。

 しかし、玲司は、日美子に対して見返りなど求めていなかった。
 唯一あるとしたら、ずっと一緒に居たい。ただそれだけである。

 玲司は、高齢になっても未だ元気なニワトリに餌をやりながら、
「全く⋯⋯きっかけはお前だったんだからな?」
 そんなことを呟いた。
 遠い夏、日美子がひよこを欲しがり、代わりに釣ってやった時に見せた、あの天使の微笑み。
 もし、あれがなければ、玲司は恋の奴隷になることもなかったのかもしれない。
「だけど、お前には元気で長生きしてもらいたいよ」
 ひよこ時代のように可愛くもなく、雌鶏のように卵を産むわけでもない。
 しかし、日美子が大事にしている数少ない存在は、玲司にとっても大事な存在だ。