玲司は、両親のことを何ひとつ責めない日美子のことを、誇らしく、いじらしくも思った。
(日美子⋯⋯僕だけは、何があっても、ずっとそばにいるよ。まあ、きみは望んでいないかもしれないけれど)
 口にはしなかったが、密かにそう決心した。

 18になった日美子は、だだっ広い屋敷で一人暮らしをすることになった。
「あのさ⋯⋯なんか、やけに散らかってない?」
 専門学校生になっても、相変わらず屋敷に入り浸っている玲司は、日美子が一人になってから、日に日に家の中が散らかっていくのを感じていた。
「そう?」

 日美子は、ハタチまでは毎月、父親から送金してもらうことになってはいたが、在宅で翻訳の仕事を始めていた。
 翻訳は翻訳でも、あくまで実務翻訳専門である。
 というのも、日美子はいくら高IQの持ち主とはいえ、情緒がやや欠けている為、感情の微妙なニュアンスを理解、表現することが苦手なのだ。