近隣住民は、やかましいと思っていたが、日美子の両親である嵯峨夫妻は、アダムス・ファミリーの夫婦のような不気味な雰囲気の持ち主。
「嵯峨さんに下手なことを言うと、何をされるかわからない」
　誰もがそう言って、ニワトリのことは諦めた。
　不気味な夫婦、怪しい洋館、笑わない日美子という三点セットは、近隣住民を遠ざけるには充分な要素だった。
　近所でも、安永家――玲司の両親――だけは、嵯峨家のことを悪く思っておらず、
「いつも玲司がお邪魔してます」
　と、挨拶もしていた。

　日美子は、10歳になっても、相変わらず一度も学校には行っていない。
「いつも一人で、淋しくないの？」
　玲司は尋ねた。
「一人で過ごすことは全く淋しくない。学校みたいに集団の中に居るほうが、遥かに淋しくなると思う。私の話し相手は、両親と玲司だけで充分」
　そんな、さり気ない言葉で、玲司はますます日美子に心を縛り付けられた。