それから日向さんとは、
一年近く会うことはなかった。

もともとお互い、
別の世界に生きている人間だったし、
会う理由も、もうなかった。

私も高校三年になり、
ようやく予備校に通い始めた。
朝から夜まで、模試と過去問に追われる日々。

……辛くなかったと言えば、嘘になる。

何度も、
「理緒が隣にいてくれたら」と思った。

机に向かっても、
あの子の笑い声がふと耳の奥で蘇ることがあった。

それでも——
理緒との、そして日向さんとの時間が、
ずっと心の中で『医者になりたい』という火を絶やさずにいてくれた。

……結局、志望校を
安全圏だった地方の国立でも、東京の私立でもなく、
少しハードルの高い東都心大にしたのも、
彼がいるということが理由の一つだったのかもしれない。

不安は多かったけれど、
一次試験を終え、二次へ進み、
面接を終えたあとの手応えは、不思議と確かなものだった。

(あぁ、これで高校生活が終わるんだな……)

帰り道、
薄曇りの空を見上げながら、
そう思った。