あぁ——
俺がやってきたことは、
無駄じゃなかったのかもしれない。

救えなかった命もあった。
失ったものも数えきれない。
それでも、誰かがそれを見て“前を向こう”と思えるなら、
それで十分だ。

……自分がかつて憧れたように、
誰かに「なりたい」と思わせられる、
そんな存在でいられていたんだ。

そう思った瞬間、
全てが報われた気がした。

重くのしかかっていた冬の空気が、
ふっと薄れていくようだった。

胸の奥が少しだけ軽くなって、
気づけば笑っていた。

「……中野さんなら、きっと大丈夫だと思う」

彼女は驚いたように目を丸くして、
けれど同じように微笑んだ。