理緒は本を抱えながら、胸の上でそっと手を重ねた。
「桜」
名前を呼ばれた瞬間、
涙をこらえていた喉がきゅっと鳴った。
「……ありがとう」
理緒は少し息を整えて、
でもその目はまっすぐに私を見ていた。
「一緒にいられて、本当に嬉しかった」
それだけを言って、
ゆっくりとまぶたを閉じた。
その横顔は穏やかで、
まるで読んでいた本の続きを夢の中で見ているようだった。
私は何も言えず、
ただ手を握る。
それが温かいことだけが、
まだ現実をつなぎとめていた。
外では夜が深まり、
遠くの街灯が雨上がりの道を淡く照らしていた。


